20:アルフォンス(アルフレッド)の本音<2>

目の前でいましがた気に入ったヤツが、オレを無視して、女と見つめあっていたら、誰だって腹が立つだろう?



「メアリ、ゆっくり息を吐いてみて。そんなに慌てたら、君の可愛い顔が台無しだよ?」


「フ・・・フレデリック様・・・・・・」



こいつは甘く微笑み、目の前の少女と(こいつ付きの侍女か・・・)そう言いながら、見つめあったのだ。


オレは、その光景を目の当たりにした瞬間、先ほどまでの上機嫌が急降下した。

強引にヤツの肩をつかみ、声をかける。



「上官命令だ、ついて来い」



そうして、強引こいつを連れて、冒険者ギルドにやってきた。

他でもない、こいつを冒険者にするためだ。



「フレリック様は先日の襲撃事件で頭を打った影響で記憶の一部が欠けております。

そのため、魔法や剣術を基礎からみっちり教えてほしいと、公爵様が依頼していたかと思いますが」



そんなことを、こいつと見つめあっていた女は言ったが、「こいつには基礎など不要だ」と言い放った。


まぁ、ぶっちゃけ基礎はしたほうがいい。一部記憶喪失なら、何か抜けがあるかもしれんしな。


だが、オレはこいつとそんな単調な遊びより、強い魔獣を一緒に狩ったりしたかった。

基礎など、その冒険者としての依頼のついでにどこかで教えればいい。

そうオレは判断した。


だから、まぁ・・・ギルドに来たのは、完全にオレのわがままだ。


そうして、やってきた冒険者ギルド。


普通は、いかにも貴族の恰好をしたこいつはトラブルの元になるのだろうが、

癖なのか知らんが、常時気配遮断をしているらしいこいつの存在に気づく者はほとんどいなかった。


オレ自身はうるさい連中にからまれたが、まぁ、いつものことだ。問題はない。


受付のロゼにこいつの登録をお願いする。

しかし、そこでオレは即座に、ロゼに頼んだことを後悔した。



「可愛いお嬢さん。彼の言う通りお願いできるかな?」



先ほど侍女に向けていた甘いほほ笑みを、こいつは、あろうことかロゼにも向けたのだ。


こいつはなんなのだ。

オレにはそんな表情などしない癖に、やたらと女にいい顔をしたがる。


確かに、ロゼもさきほどの侍女も15歳くらいだろう。

正直、お似合いの歳だ・・・。

そう思えば思うほど、なんだかすげぇ腹が立ってきた。


だから、冒険者登録に血が必要だといわれたとき、思わず、こいつの指をとった。



薬指をかみちぎり、そして、ヤツに見せつけるように、舐めてやった。



こいつの新しい表情を引き出したいとやった行為だが、それは成功だった。

・・・だが、失敗でもあった。


血が垂れた指をなめ上げたとたん、こいつは潤んだ瞳でオレを見上げてきたのだ。

思わず、こいつが男だとか、準成人にもなっていないガキだとかいう情報がオレの頭からすっぽ抜けちまった。



(すげえ・・・・・・かわいい)



(このままじゃヤバい・・・)そう思ったオレは、こいつを引っ張り、ギルドの外に出て、開口一番言い放った。



「お前、男らしくないんだよ!すっげぇ、やりづらい!!

娼婦で男にしてもらってこい!」



そして思わず、言葉を付け足す。



「・・・ああ、なんなら、一緒に付き合ってやってもいいぜ?」



言いながら、なんて、甘美な提案だろうと思った。


だが、ヤツは白けたような表情でオレを見上げてきた。

言葉にしなくてもわかる。



(何言ってんだ、こいつ・・・)



ってところだろう。オレだって、そう思う。

13歳の時に、20歳をすぎた年上の男にこんなこといわれたら、半眼にもなる。


気まずさを隠し、無理矢理「上官命令だ」と言って従わせ、平民向けの古着屋、そして武具店に入る。



「剣は、城のを借ります」



というヤツに、「そんなのただの冒険者が持ってるわけないだろ?却下だ」と言い、ヤツが熱心に見ていた剣を買い与えてやる。


かなりの業物らしく、こいつの指導料の何か月分かが飛んだ。



・・・まぁいい。懐はイタいが、オレはそこまで金に困ってないしな。



手っ取り早く、装備と服を整えて、「さぁ、やっと娼館だ」と声をかけると、ヤツは、神妙な声音でオレに言った。



「あの・・・なんというか、身体が大人になっていないんですが・・・だから・・・娼館はちょっと・・・無理というか・・・・」



そんなことを真っ赤な顔で言われた。

まぁ、13歳なら、確かにまだのヤツもいる。

こいつは最初見たとき、女だと見間違えたくらいの体型だし、実際まだなのだろう。



(娼館は無理か・・・はぁ)



なんだか拍子抜けした。

溜息が出て、冷静になる。

13歳のガキにオレは何してんだと。オレはいま23歳だ。


準成人にもなっていない未熟なヤツを、しかも男を、濁った目で見た事実に今更ながら、愕然とする。



「分かった。まぁ、悪かったな、いろいろ言っちまって。とにかく、お前はこの装備を持って、帰れ。いや、襲撃されたばかりだから、1人での行動はダメだったか・・・」



そう思いなおして、城にヤツを送り届けた。



「じゃあな、明日はその服を着て、オレと魔獣狩りだ。剣、忘れんじゃねぇぞ」


「ええ、明日は楽しみにしています」



そう言ってほほ笑んだヤツの顔は、こいつ付きの侍女やロゼに向けていたあの甘いほほ笑みだった。


思わず舌打ちして、オレが踵をかえす。


ギルドのときの表情もいろいろヤバかったが、いまの顔もかなり・・・・・ヤバい。

気持ちを落ち着かせるように、一度ハッと鼻を鳴らして、オレは城をあとにした。

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