19:アルフォンス(アルフレッド)の本音<1>
ロッド爺の頼みでやって来た、<南の領地>最大都市<サリム>にある城。
壮観な眺めに反して、オレの気持ちはどんよりしていた。
オレが冒険者をしているのは、強い奴に会いたいという思いもあるが、まぁ、豪華絢爛とか権力とかそういうのが、煩わしかったのもあるのだから、そんな気持ちになるのは、当然と言えば、当然だ。
これからやっかいな権力を持つ、<貴族のバカ息子>の<魔法騎士ごっこ>に付き合わなくてはいけない・・・。
そう思うだけで、頭を抱えたくなった。
オレが騎士団にいたときに、お世話になったロッド爺は第三騎士団の団長だった男だ。
平民出身の叩き上げ。そして、南の公爵配下の伯爵家の令嬢に婿入りした、騎士団の異端児だ。
長らく団長を勤めあげていたから、オレが王族になったばかりの時から、成人するにいたるまですごく世話になった。
オレがいま生きているのは、ロッド爺のお陰といってもいい。
だから、ロッド爺から突然来た指名依頼を断れなかった。
その内容が、ハタ迷惑な<貴族のバカ息子>を鍛え上げるという内容だったとしても。
オレは10歳まで平民として、暮らしていたせいか、正直、貴族らしい貴族は、女も男も大抵苦手だ。
令嬢とか呼ばれるやつらは、他力本願だし、貴族子息は平然と平民を見下してくるのが、我慢ならない。
自分より実力が上だろうが、平民出身の魔法騎士たちを奴隷かなにかと勘違いし、魔法<騎士>であるにも関わらず、平民の魔法騎士・正騎士・兵士たちを盾に、後方から魔法を打つ奴らばかりだった。
つまり騎士のくせに、剣をまったく扱わないのだ。
「お前ら魔法騎士じゃなくて、ただの魔法使いだろう」と何度、思ったことか・・・。
大体、貴族も平民も、同じ人間には変わりはないってのに、見下すとか阿呆らしすぎる。
だから、引き受けたとはいえ、この依頼は本当に逃げ出したいくらい嫌なのだ。
冒険者は基本、平民。
ロッド爺にも頼んで、トラブルを呼びかねないから、オレの身元は先方には、伏せてもらっている。
つまり、先方はオレのことを、<魔法騎士団のときの部下だったいま冒険者をしている平民の男>と認識しているということだ。
貴族のバカ息子のことだ、「平民の言うことなど聞かないだろう」。そう思うと反吐が出るようだった。
(まぁ王弟だと知られて、媚びを売られるよりは、ましか・・・)
何度目かの舌打ちをする。
そうして、城の使用人に案内されてきた鍛錬場で待っていると、オレの目線の先、城の影から気配遮断をしながら、何者かが近づいてくるのを感じた。
並みの使い手じゃ見逃すほどの気配遮断。相当な使い手だということがわかる。
(そういえば、オレが教える予定の貴族のバカ息子は、少し前に襲撃されたんだったか・・・。もしかして、その時の犯人か?)
密かに迎撃態勢を整え、オレ自身も気配遮断をする。そして、どんないかつい男かと思って、にやけながら待っていたら・・・。
現れたのは、天使かと見間違うかと思う可憐な女の子だった。
「は?」
思わず、低い声でうなってしまう。
そして、次の瞬間、そいつが、バカみたいに宝石がつきまくっている男物の鍛錬服を着ていることに気づく。
(こいつ。貴族のバカ息子じゃねぇか!!)
分かった瞬間、女に見間違えた自分に腹が立った。
しかも、相当な手練れだと思ったのに、こいつは帯剣すらしていない。
色々な思いが噴出して、思わず半眼になり、にらみつける。
「遅い!!世話になったロッド爺の頼みだから、来てやったが、剣も持たずにやってくるとはな」
大体の貴族は、図体のでかい平民っぽいオレに怒鳴られると、権力をかさに威張り散らす。
だから言った瞬間、初日からやらかした・・・とは思ったものの(こいつも威張り散らして、オレへの依頼を放棄してくれないかな・・・)と少しだけ期待した。
・・・が、こいつはオレの態度に平然としていた。
「なるほど、あなたが代わりに来た講師でしたか。
私は、フレデリック・フランシス。今日から世話になる」
その様子を見て
「面白いな」
そう思った。
・・・・・・そう思ってしまった。
だから、当然オレは・・・・・・試したくなった。
噂で、天才とちやほやされているこいつの実力を。
こいつも、いままで会ってきた数多の<貴族のバカ息子>と同じ、魔法の才能におぼれただけのやつか、それとも違うのかを・・・。
気づいたら、剣を抜いていた。こぶしを振り上げていた。
そこで分かった、こいつの実力・・・・。腕力はそれほどなさそうだが(まぁ13歳なら当然か・・・)下手したら、オレ並み・・・じゃねぇか?
このままいくと、平民叩き上げの最強魔法騎士と言われた全盛期のロッド爺すら超えてる逸材じゃねぇ?
戦慄した。胸が高鳴った。ロッド爺が辞めてから、模擬戦ですら、オレの相手を務まるやつはいなかった。
つまらなかった。
だから、権力のわずらわしさもあるが、何より強い奴との闘いを求めて騎士団をやめて冒険者になった。
世界中を旅した。
だけど、たまに強い魔獣がいるくらいで、胸が高鳴るような人物にはいまだあったことがない。
だけど、こいつは違うのかもしれない。
これから、こいつと模擬戦をしたり、共闘したりするのはなんかすげぇ楽しそうだと思った。
だから言った。気に入ったこいつを逃すまいと。
「騎士団では、上官の命令は絶対。つまり、今日からお前は俺に逆らうなよ?」
決まった。
これでこいつはオレのものだ。
しかし、こいつはそんなオレの言葉に気のない返事をした。
(気に入っているのは、オレだけで、こいつは全くオレのことなど眼中にないんじゃないのか?)
そうと思うと、すげぇ腹が立った。
だから、ついつい耳をなめてしまったのは、仕方ないだろう?
こいつは、なめた瞬間、顔を真っ赤にさせた。
その表情を見ながら、これからこいつと過ごす日々を思って、胸が高鳴った。
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