18:冒険者登録完了!
アルフォンスの先導のもと、豪奢な扉をくぐると、屈強な男たちの視線が集まってきた。
この国の「冒険者」は、どうやら男性が8割以上を占めるらしい。
清潔な建物であるにも関わらず、入った瞬間、「もわっ」とした特有の男くささが鼻をつく。
<冒険者ギルド>の中は入口右手側に酒場、左手側に掲示板があり、少し離れた目の前には受付のようなものが見えた。
「おっ、アルフォンス!なんだ?厄介な依頼があって、しばらく来れないんじゃなかったのか?」
「あああああっ!!お前!この前、食堂の看板娘のルイーゼちゃんにオレのこと、色々吹き込んだだろう!お前のせいで・・・オレはっ!オレはぁあああぁぁぁ!!」
アルフォンスの巨体に隠れて私のことは目に入らないのか、男たちは口々にアルフォンスに声をかける。
酒場で酒を飲んでいる者が多いためか、若干ガラが悪い。
男が「ルイーゼ・ルイーゼ」言いながら、急にアルフォンスに殴りかかってきた。
しかし、アルフォンスは一瞥もせず・・・。
「ああ、うるせー!どけ、どけっ!!」
ゴガッ
その男を左手でぶっ飛ばした。
「ぶふぅううっ!アルのバカやろぉおおおっ!ルイーゼちゃぁあああん!!!」
「うおぉおっ!さすが、A級アルフォンス!ロダンを一撃で沈めたぁあああ!!」
「冒険者」には、F級からS級までのランクがあり、最上級はS級。
前世の姉情報では、ゲームでのアルフォンスはS級だったはずだが、ゲーム開始前の現在、彼はA級らしい。
(大盛り上がりだなぁ。ちょっと乱暴なことに目をつぶれば、この世界で冒険者として生きていくのもアリだな)
屈強な男たちが床に倒れ伏しているロダンを肴に飲み始めたのを見ながら、そう思いをはせていると、前を歩いていたアルフォンスが私に目線を向けた。
受付らしきところにいる女性に話しかけている。
「ロゼ、こいつ新人。冒険者登録してくれ」
「えっっ?この方って・・・・・・・・・えっ??」
受付カウンターの1つに座っているロゼと呼ばれた10代後半の女性は、アルフォンスに名指しされて、戸惑いの声をあげる。
そばかすのある可愛い顔が、私にくぎ付けだ。
それもそのはず、何故ならいまの私の着ている服は、父・コドックからもらった豪奢な鍛錬服。どう見ても貴族にしか見えない。
この世界では、基本的に「冒険者」になるような貴族はいない。王族なのに身分を隠して、冒険者をしているアルフォンスが異質なのだ。
まったく何も考えずにこの衣装のまま、半ば無理やり私を連れてきたアルフォンスに嘆息したい気持ちが湧き出る。
しかし、それを抑えてロゼに微笑みかける。
「はじめまして、可愛いお嬢さん。彼の言う通りお願いできるかな?」
公爵子息教育で得た優雅なほほえみの効果は絶大だ。ロゼと呼ばれた受付の女性の顔が赤らめて、あたふたしだした。
「はっ!はい・・・!しょ・・・少々お待ちください!!」
真っ赤になりながら、一生懸命、登録のための羊皮紙をロゼが差しだすので、受け取る。
いろいろ記入する欄があるが、名前だけでも大丈夫とのことで「フレド」と兄の愛称のみを記す。
記入しおわった羊皮紙をロゼに返すと、手慣れた様子で受付の横に置かれた水晶に紙をかざした。
すると一瞬紙が光ったと思ったら、その水晶の中から名刺サイズのカードがポンッと現れる。
さながら3Dプリンターのようだ。
(へぇ、面白いな。この水晶、魔道具なのか。この世界はやっぱりワクワクするなぁ)
興味深げに眺めていたら、ロゼがカードを私に渡してきた。
「こちらが、フレド様の冒険者証になります。血を一滴垂らしていただくことで、登録完了となります。登録者は全員F級からのスタートとなります」
「血?」
「は・・・はい!えと・・・これは魔道具で・・・・あの、フレド様の血を登録すると、これからフレド様が魔物を倒したら、その数と種類が表示されるようになっている・・・んです」
顔を赤らめながら、そう説明するロゼ。
(血かぁ・・・ナイフとかで指先を切ればいいかな?)
そう思っていたら、急に左手をつかまれた。
「っつぅ」
「これで登録完了だ」
つかんだのは、アルフォンス。
彼はつかんだと同時に、私の左手薬指に噛みつき、そこから流れ出た血をカードに押し付けたのだ。
(一言言ってほしかった)
突然の暴挙に思わず恨みをこめて、アルフォンスをギロッと睨むと、アメジストの瞳が細められ、これみよがしに、指をなめられた。
「・・・っ」
「はっ!あとはオレが説明する。行くぞ、フレド」
「え?でも、新規の方は、任意で魔法力検査も行っていて・・・」
「いらねぇよ!!」
ロゼが魔力検査を勧めてくれたのに、アルフォンスは無下に断り、私の手をつかんだまま、受付から離れていった。
(いや、いるから!
確かに本物のフレデリックだったら貴族男子だし、属性とか魔法量とかもう既に検査済みだから不要だろうけど・・・。
私は分からないからな・・・。どの属性に適性があるか知りたいし、魔力量も知りたいってのに・・・)
心の中でボヤきつつも、ここでモメてもどうしようもないと、引きずられながらもロゼに振り向き
笑みをつくる。
「ごめん。また来た時、よろしくね」
「は・・・はい!フレド様も・・・・」
しかし、元気に赤い顔で返事をするロゼの声を「ちんたらしてんじゃねぇ」という若干いらだったアルフォンスの声が遮る。
アルフォンスの方に目線を戻すと、ずんずん出口の扉に向かっていくのがわかる。
(依頼の掲示板はこっちじゃないはずなんだが・・・?)
<冒険者ギルド>内にある掲示板をまったく見向きもしない。
「あれ?アル、もう帰るのかぁ?」
「うっせー!!」
バンッと乱暴に扉を開け放つアルファンス。
扉から出たところで、ようやく掴まれていた手が離された。若干、手首が痛い。
「冒険者登録して、実戦を経験するはずでは?」
私がいぶかしげに、アルフォンスに問いかけると、剣呑な目を向けられた。
無駄に顔が整っているから、正直ドキっとする。
「そんな恰好でか?剣もないのに?」
「う・・・」
確かにこの服に縫い留められた宝石は武器になるが、やはり冒険者としては不適格だ。
「そのまま連れてきたのは、あなただろう」というセリフを言いたいのを飲み込み、言葉をつまらせると、アルフォンスが私を鼻で笑った。
相変わらず、その所作ですべてが台無しだ。
「まずは、冒険者に見える服を買うぞ。・・・・それから娼館だ」
「・・・は?」
(修業をするはずが、なぜ、娼館・・・?)そんな私の疑問が顔に出ていたのだろう。アルフォンスが言葉をつづけた。
「お前、男らしくないんだよ!すっげぇ、やりづらい!!
娼婦で男にしてもらってこい!
・・・ああ、なんなら、一緒に付き合ってやってもいいぜ?」
そう言って、にやついてきた。
「・・・・・」
思わず、無言になり、顔をしかめた私は悪くない。大体、兄になりすましているが、私は女だ。どうやったって男になることはできない。
そんな私の様子を見て、アルフォンスは、アメジストの瞳を細め、無情な一言を言い放った。
「上官命令だ。・・・・来い」
この世界で、理奈としての意識を取り戻してから、私はいま、もしかしたら一番ピンチなのかもしれない。
ドナドナされる牛のように、アルフォンスの背中を追いながら、私は無性にやるせない気分になった。
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