07:フレデリックの才能
王都郊外にある「常陽の森」。レイ皇国建国以来、ずっと存在していると言われるこの森は比較的弱い魔獣が多くいるらしい。
その森の中で、少年期特有のアルトの声が響きわたる。
「アイスランス」
そのアルトの声の
「ズドズドドドドッ」という音を響かせると同時に、兄に襲い掛かってきていた犬型の魔獣「ファングドッグ」三頭の頭にキレイに突き刺さった。
「「「グガァァァァァッ」」」
・・・と同時にファングドッグはぐったりと力なく、横たわり絶命した。
「次はオレの番だな! 風よ、刃となり切り刻め シャイド」
兄とは対照的な低音を響かせながら、一緒に来ていたジンが、もう1頭いた「ファングドッグ」を風の刃で仕留める。
その光景を私は少し離れたところから、感嘆とした面持ちで見つめていた。
この森に来る前に聞いた「狩り」という言葉から、普通に弓矢でウサギやイノシシ、鳥なんかを狩るのかと想像していた。
だから、この光景を見て心底驚いたのだ。
(まさか魔法で狩るとは・・・!)
そう思うと同時に「私もやってみたい」という気持ちがうずいてくる。
(こんなアクションゲームにあるような楽しいイベントを見逃すのは、本当もったいない・・・!!
・・・だけど・・・・・・・・)
そう思考をめぐらせたところで、私は顔を動かさず、目線だけを後ろに向けた。
(二人・・・か・・・しかもあのジンにも気配を察知させないとは、相当な手練れだ・・・。
私も狩りをしたいが、狩りに集中しすぎて、何かあってからじゃ遅いからなぁ・・・)
残念な気持ちをおさえ、息を吐く。
姿は木々に阻まれて見えないが、確実に二対の目は私たちを見つめていた。
実は王都の屋敷を出てから、私たちはずっとこの二人にあとをつけられているのだ。
「剣聖」のときの感知能力が再現されているのか、そのことに私はいち早く気づいた。
しかし、尾行される理由にまったく心当たりがないため、敵か味方かもわからず、私は警戒をとくことができない。
視線を元に戻すと、ちょうど兄・フレデリックとジンが、ファングドッグの胸部を切り裂き、魔石を取り出していいた。
この世界は電化製品がなく、代わり魔道具と呼ばれる製品がある。
その動力源となるのが、この魔獣の体に埋まっている魔石だ。
だから、こうして二人はせっせと魔石を取り出しているというわけだ。
魔石を売って稼ぐため・・・というよりは、フランシス公爵家の教えとして資源は大切にすべき、というものがあり、その教えのもとでの行動だろう。
興味深く見つめていると私の視線に気づいたのか、ジンが兄・フレデリックに何かを言った後、少し離れた私の元へやってきた。
「レティシア様、大丈夫ですか? ファングドッグのような凶悪な獣など初めて見ただろう」
レイ皇国の貴族女性が、狩りに来ることなどまずない。だから初めて魔獣をみた貴族女性は、まず腰を抜かすことが多いらしい。
ジンはどうやら私を気遣って来てくれたようだ。
「ありがとう、大丈夫だ。二人とも見事な魔法だな。兄様は水属性の魔法が得意なんだな」
「ああ、フレド(フレデリック)様は水属性に高い適性があるんだ。あと風属性も割と得意なんですよ。
レティシア様はご令嬢だから知らないかもしれないけど、フレド様は魔力がすごく多い。
何よりこの年齢ですでに詠唱省略が使えるから、<稀代の魔法騎士になるんじゃないか>なんて、まだ魔法騎士にもなっていないのに言われていますよ」
ジンが自分のことのように兄のことを自慢げに話す。
「へぇ。・・・<詠唱省略>?」
「ああ。魔法を使うとき、フレド様は<アイスランス>としか言ってなかったでしょう? 普通はもっと長い呪文を唱えなきゃ、魔法は発動しないもんなんだ」
ジンいわく、魔法を使える者の中でも詠唱省略ができるものは、あまりいない。
できる者も壮年以降にできるようになることが多いため、この若さでそれが出来るフレデリックは100年に一度いるかいないかの天才として、貴族男性の間で知られているのだという。
(なるほど、な。
だったら、私が「ファイア」と言っただけで魔法が出来たのも、この世界だと珍しいということだったのか・・・・・・。
まぁでも、兄が出来るのだから、妹の私ができても不思議はないってことだな)
私は一人心の中で自分の能力に納得した。
しかし、それと同時に、先ほどのジンの言葉に疑問を覚えた。
(兄様は、水属性以外にも風属性の魔法が使える、とジンは言ったな。
じゃあ・・・なぜ兄様は<事故>であっけなく死んでしまったんだ・・・?)
風属性魔法は、その名のとおり<風を操る>魔法だ。
例えば、崖などから落下したとしても、その衝撃を和らげることができる。
さらに兄が詠唱省略できるなら、不測の事態でも、すぐに魔法を発動させられるから、事故が起こったとしても最悪の事態を防げるはずだ。
よく考えたら、本来なら起こりえるはずがない<兄の事故死>。そして、先ほどから後ろで隠れるように潜む手練れ。
その二つが唐突に私の中で結びつくのを感じた。
「・・・・・・・まさか・・・ッッ!!!!」
レティシアが思わず、声を上げた瞬間。
「・・・ッッ うう・・・ぐぅぅ・・・ッ」
「ああああああああぁぁぁぁ・・・ッッッ」
森の中に、二人の悲鳴がこだました。
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