第21話
……あれから、どれくらいの時間が経ったんだろう。
目を開くとそこには、暗い床が広がっていた。
俺は閉じ込められた倉庫の中で、いつの間にかうたた寝していたらしい。
(いま何時だ?)
時間を確認しようとして、手に取ったスマホのバックライトが目に刺さる。
時刻はちょうど下校時間を回った頃だった。
音無さんはあのまま帰ってしまったんだろうか。
そのうちカギを開けにくるだろうと高をくくっていた、俺の考えは甘かったらしい。
(どうするか)
上半身を起こし、スマホの電話帳を開いた。
この学校の職員室にかければ、誰かしら先生が来てくれるに違いない。
そうするとここに閉じ込められていた理由を聞かれ、スマホを持ち込んでいることも説教されるだろう。
いや、スマホのことはいい。それより文芸部とのトラブルについて話したくはなかった。
どうして入部したのか、どうして俺は書かなかったのか。
そんな心のナイーブな部分を、人前にさらけ出したくはない。
ああ……でも、これも身から出たさびだ。
「はあ……」
重いため息が、カビ臭い倉庫内に反響した。
そんな時……。
「……泉くん?」
外側からドアを叩く音と、聞き覚えのある声が聞こえた。
「月形?」
「そこにいるの!?」
ガタンとドアが鳴り、それからかんぬきを外す音が響く。
開くドアの隙間から、月形の細いシルエットが見えた。
「泉くん!」
顔を確認する間もなく、彼は俺の方へ駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
目の前に月形がひざを突き、鼻先がぶつかりそうになった。
「大丈夫だ。強いて言えば、トイレに行きたいけど……」
「トイレ!? えーと……行こう!」
手を引いて倉庫から連れ出される。
(なんで手……)
夜の学校を背にする月形の横顔があまりに真剣で、手を振り払うことができなかった。
握ってくる手がやけに力強い。
(なんだよこれ)
俺が女子なら、うっかりこいつに惚れてしまうかもしれないと思った。
一度はキスした仲なんだし、いろいろと、な……。
「来てくれてありがとな」
校舎の方へと進みながらとりあえず、半歩先を行く月形に礼を言う。
すると彼は申し訳なさそうな顔で俺を見た。
「むしろ、助けが遅くなって悪かったと思ってる。音無さんやみんなの様子が変だってことにはなんとなく気づいてたんだ。けど、その理由を聞き出すのに時間がかかってしまった……」
「いや、普通気づかないだろ! 俺は毎日部活に顔出すわけじゃないし」
音無さんたちの様子がおかしかっただけで異変に気づくなんて、どんな勘の良さだと思う。
俺だって月形が来てくれるとは予想もしなかったし。
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