教室


「………」



しばらく歩いてみて思ったんだけど、ここは私の通ってる学校ではないな。


トイレから廊下に出た時に感じた違和感が、ようやく分かった。




「…1ー6?」




小さな机。四角い棚。散らばったランドセル。

なるほど。小学校か。だからあの時、小さいと感じたんだ。




「…お邪魔します。」




教室の中も血で汚れている。

でもあきらか小学生ではない死体が、ここにも転がっている。

それに、ここはどこの小学校だろうか。少なくとも、私が通っていたところではない。


…ところで、窓際にひとつだけある、汚れていない教科書は、何かの罠だろうか。

……まぁいいか。どこの小学校か分かるかもしれないし。今のところ、それを調べること以外に、自分がどこにいるかを知る術が無いしな…



少し警戒しながら近付く。

おびただしい赤色の中で、白い表紙が際立って光る。


ゆっくりと手に取り、そっと持ち上げる。




「…さんすう。はは、懐かしい。」




中を開く。ひらがなと数字の教科書。第1項目に たしざん と書いてある。

…見にくいな。今は漢字が読めるからか、漢字がないと何か変な感じだ。




「…ダジャレじゃないよ。」




…平気な顔をしているが、流石にしんどい。くそつまらん独り言でも言って自分と対話しないと、気が狂いそうだ。



にしてもつまらねぇダジャレだな…もっとセンスあるダジャレをさ……








ガタッ




「 !誰!!」



怒鳴りつけてから後悔する。生き残りかもしれない。

いや……それは無いだろう。この場面だと、殺人鬼が出てくるに違いない。小説では大抵そうだ。ロクな相手じゃない……!!




「出て来なさいよ!!!卑怯よ!!!!」




とは言ったものの何も持っていない。

仕方ないのでさんすうの教科書を構える。なんて弱そうな。間違いなく死ぬな、これ。



…というか、全裸で教科書構える女って………やばいよ。




「………ちゃん。」

「何!?さっさと出て来なさいよ!!!!」

「……いちゃん。私だよ……」





僅か、ほんの僅かだけ、何かを思い出しそうだった…ような気がするが、私の意識は答えを出す前に、扉の影から出てくる存在に行ってしまった。



音を立てたその何かが、殺人鬼だと決め付けていた私は少し狼狽えた。扉の向こうから出てきたのは、同い年くらいの女性だったから。


そして彼女は私に、こう言う。





「まいちゃん……ゆきだよ………!」

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ドラッグ 恋涙 @Re_x_s

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