07

竹内くんは、気付いていたんだ。

私が教室からテニスコートを見ていたことを。

何も言えないでいると、竹内くんはすっと握り拳を出した。


「?」

「先輩、受け取ってください」


何だろうと、そっと手を差し出すと、私の手のひらには1つのボタンが置かれた。

意味がわからなくてボタンと竹内くんを交互に見てしまう。


「俺の気持ちです」


竹内くんの、気持ち…。


学生服を見れば、第2ボタンがない。

え、まさか今渡されたこのボタンは竹内くんの第2ボタンなの…?

気付いた時には、私はボタンを押し返していた。


「ダメだよ!第2ボタンは大切な人にあげなくちゃ!私なんかがもらったら、彼女が可哀想だよ!」

「先輩にもらってほしいんです。彼女なんていません」

「うそ…」


混乱する私に、第2ボタンをもう一度握らせると、


「戸惑わせてすみませんでした。でも、このボタンはぜひ受け取ってください。思い出の一部として」


どこまでもイケメン対応な竹内くんは、少し悲しそうな眼をしながらもニコリと微笑んで、そして去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る