102「帰還」①





 行きはあっという間だったのに、アムルスに帰るには長い時間がかかった。


 レダは大きく消耗し、テックスの肩を借りなければならないほど疲弊していた。


 エンジーは完全に意識を飛ばしており、目覚める気配はない。

 ルルウッドとポールに両肩を借りて引きずられている。

 そんなふたりも長い時間戦ったことにより、魔力も体力も大きく消耗していた。


 ノワールは力が尽きてしまい子猫の姿に戻っている。

 さすがのナオミも体力が尽き、シュシュリーとアメリアに肩を借りなければまともにあるけなかった。何よりも少しでも気を抜けば、眠ってしまいそうだった。

 シュシュリーとアメリアも、疲れた身体で小柄とはいえ女の子をひとりの体重を預けられるのは大変そうだった。

 ノワールも自分で歩く気力がないようで、シュシュリーの頭に乗って動かないと無言の主張している。


「……ようやく、アムルスが見えたね」

「まったくだ。意気揚々と出発したのはよかったが、帰りまで考えてなかったぜ」


 視界にようやくアムルスが見えてサムが安堵する。

 テックスも「荷台でも用意しておけばよかったぜ」と笑う。


「早く、みんなにもう脅威はないと伝えないと」

「……誰かが先行して……その元気がある奴はいないわな。俺を含めて、お互いに支え合ってないと倒れちまう」

「もう少しです。頑張りましょう」


 レダは気が逸ってしまう。

 恐るべき災厄の獣の脅威がなくなったのだ。

 不安に怯える友人たちに少しでも早く安心を届けたいのだ。


 テックスも、ナオミもルルウッドたちも同じだ。

 同時に、限界も近づいている。


 戦いの最中は少しでも気を抜けば死ぬと考えていたので張り詰めていたものが、アムルスを見つけたせいで切れそうだった。


 いくら災厄の獣の登場のおかげでアムルス周辺からモンスターがいなくなっているとはいえ、街の外で倒れることなどできない。


「みんな、もう少しだ……頑張ろう」


 一同が頷く。

 あと少しで、家族がいる街に帰れる。


 早く帰りたい。

 家族に会いたい。

 家族を抱きしめたかった。


「……い、おい、レダ」

「あ、すみません……意識が飛んでました……」

「死んじまったかと思ったぜ……いや、すまん。不謹慎だな」

「ははは、そう簡単に死んだりしませんって」


 それでも身体は限界だ。

 一歩を踏み出すのが辛い。



「――――――――」



 どこかで声が聞こえた。



「―――――――ん」



 また声が聞こえた。

 掠れる目を擦り、前を見る。



「――お父さん!」



 聞き間違いではない。


 遠くから大切な娘が走ってくる。



「――ミナ」



 ――ああ、よかった。帰ってこられた。






 〜〜あとがき〜〜

 災厄の獣編終了です。

 事後処理のお話を少し入れて、王都編です!


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