97「全力の回復魔術」②





 エクストラヒールが災厄の獣を襲った。

 本来ならば、重症者を癒す回復魔術は獣の身体の一部を消し飛ばした。


「――は?」

「――え?」


 まさかこんなにも効くのか、とレダとエンジーが戦闘中にも関わらず目を丸くする。


「――レダ! エンジー! 続けるのだ!」


 ナオミの大声に、我に帰ったふたりが魔力を高め、後先を考えずに決着をつけるべき聖属性をこれでもかと込めた。


「――エクストラ」

「――ヒール!」


 癒しの力が災厄の獣の身体を覆った。

 刹那的な攻撃ではない。

 獣が力尽きるまで、止めるつもりはない。


「――――――――――――――――――――」


 獣の絶叫。

 耳を押さえたくなるが、耐える。

 魔力と呪いを込めた、叫びだった。

 痛みではなく、攻撃でしかない絶叫だった。


 吐き気が込み上がる。

 だが、魔力は注ぎ続ける。


 また絶叫。

 レダの鼻から血が流れた。

 エンジーの耳から血が流れた。


 それでも二人は止められない。

 ふたりのエクストラヒールは、獣の四肢を塵にした。

 音を立てて獣が地面に倒れる。


 モンスターを産んでいた身体から青い炎が吹き出し、焼け爛れていく。

 また絶叫。

 レダが吐血した。

 間違いなく獣はエクストラヒールに包まれて動けずとも、明確な殺意と呪いを込めて叫んでいる。

 少し離れているとはいえ、確実獣の叫びはレダとエンジーを蝕んだ。


「――どちらが先に根を上げるか、勝負だ」


 負ける気はしない。

 レダはひとりで戦っているわけではない。

 隣にはエンジーがいる。

 ナオミが、ノワールが、テックスがいる。

 ルルウッド、シュシュリー、アメリア、ポールもいてくれる。


 ――最高の仲間たちだ。


「悪いけど、負ける気はしないよ」


 もう一段階、魔力を上げた。


 エクストラヒールによって獣の身体が朽ちていく。

 六つの目から青い炎を吹き出し、もう視界は無いも同然だ。

 それでも最後の抵抗とばかりに、口を開いた。


「――ブレスだ! 勇者ナオミ!」


 ノワールの叫びに、ナオミが聖剣を構えた。


「――応! なのだ!」


 ――斬っ。


 ナオミが聖剣を鋭く縦に振り下ろした。

 一閃。

 獣の首が胴体から離れた。


 絶命はしていない。

 即死ではない。

 まだここからでも再生できるのだ。


「――させるものか」

「させません!」


 限界を超えた魔力を使いエクストラヒールを重ね掛けする。

 レダの額が裂けて血が吹き出す。

 エンジーの腕や足が裂けて、血が流れた。

 二人とも限界を魔力を捻り出しているせいで、肉体に大きな負担が出ているのだ。


 エンジーが膝をついた。

 だが、彼は意地でもエクストラヒールを止めなかった。


 レダも片目に血が入りながらも、絶対に止めなかった。




 ――そして。





「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」




 ナオミが聖属性の光を解き放ち、巨大な刃を作る。

 まるで巨大な聖剣だった。



「これでっ、とどめなのだっ!」



 巨大が振り下ろされ、災厄の獣は首を残してすべてが消し飛ばされた。






 〜〜あとがき〜〜

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