91「エンジーの活躍」②





「……これは、結界?」


 白い光は災厄の獣を囲んだ。

 獣は興味と好奇心を抱き、爪を立てるが光の円はビクともしなかった。

 それどころか、獣の爪が弾け飛び血が噴き出るダメージを与えたほどだ。


「はい! 聖属性の結界です!」

「――なんて器用な……それにしても、いつの間に」

「思いついたので勢いです! 自信がないって言いそうですけど……意地でも災厄の獣を出しません!」


 レダはエンジーの才能が覚醒したことを察した。

 もともと控えめだった性格だったエンジーだが、それは能力の問題ではなく、人間関係だった。

 実際の腕は、同期たちと遜色ない。

 先日の、凄惨な現場も乗り切り一皮向けたと思っていたが、どんどん成長していく。


(――俺がエンジーの歳の頃は燻ってたからなぁ)


 才能もあるが、エンジーの心が強いのだ。

 恐ろしい獣を前に、逃げ出したい気持ちを抑え、立ち向かった。

 誰にでもできることではない。


 勇者でも冒険者でもない、治癒士のエンジーがやっているのだ。

 レダもナオミも負けていられない。


「エンジー! この結界の中には」

「入れます!」

「よくやったのだ!」


 ナオミが結界の中に飛び込んだ。


「今度は絶対に、ここで仕留めてやるのだ!」


 ナオミが聖剣を振るう。

 斬る、ではなく、叩き潰すような勢いだ。

 彼女の小柄で細い腕のどこからそれほどの膂力が出るのか、見ていて唖然としてしまう。

 巨体を持つ災厄の獣はナオミの一撃によって、吹き飛ばされ、背中からエンジーの張った聖属性の結界に激突した。




 ――次の瞬間、絶叫が上がった。




 吐き気が込み上げてくるような、絶叫だった。


 背中を結界に焼かれた獣が、呪いを込めて叫んだのだ。

 油断もあっただろう。

 好奇心もあっただろう。

 しかし、与えられた痛みによって、「それら」が消えた。


「ナオミ! くるぞ! 結界の外に出ろ!」


 獣の変化を感じたレダが叫び、ナオミが飛び出す。


「エンジー! 力を全力で!」

「はい!」


 獣がナオミを追って地面を蹴った。

 決して広くない結界内の中を短い時間走り、大きく口を開けてナオミを食らおうとした。

 だが、ナオミはわずかな差で結界の外に飛び出しており、獣は結界に激突した。



 ――また絶叫があがる。



 聖属性とよほど相性が悪いのだろう。

 背中と同様に、顔が焼け、爛れた。

 しかも、再生しない。


「――いける!」


 レダも魔法を撃ち、畳み掛けようとした。



 ――が、エンジーの張った結界に亀裂が走る。



「レダ! サポートをするのだ!」

「ああ!」


 ナオミがレダの名を呼んだときには、エンジーの結界の上から新たな聖属性に結界を張っていた。

 一般的な魔術障壁の代用だが、これでもかと強固に組んだ。

 聖属性も叩き込んだ。


「……我慢比べになりそうだね」


 身体が焼かれようと気にせず暴れ続ける獣に、レダは嫌な汗を流した。






 〜〜あとがき〜〜

 聖属性があるのでまともに戦えていますが、もしなかったらもう死んでいたでしょう。

 それだけ災厄の獣と聖属性は相性が悪いのです。



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