92「助っ人」





 ――レダたちが災厄の獣と戦っている頃、アムルスでは。


「予定よりも早く戦いになってしまったようだ。力を取り戻すことに専念したが、全盛期には程遠く、弱い」


 子猫ノワールは、アムルスの外に出て目を瞑っていた。

 魔族から援軍を連れてくるように指示を出したが、予定外の速さでレダ達が遭遇し戦っているので、援軍は諦めた。


「勇者に敗北し、一度は死んだ身だ。ご主人と家族のためならこの命を散らすのは本望だ」

「奇遇だねぇ、魔王様よぉ」


 ノワールに声をかけたのは、武装した冒険者テックスだった。


「――テックス。あなたは死にかけていたはずだが」

「いやぁ、情けなくて涙が出るね。一応は、アムルスの顔役でもあったんだが、不覚を取っちまった」

「ならば」

「だからよ、恩人だけに戦わせるなんてことはできねえんだわ。それこそ、死んでもな」


 テックスは、アムルスが好きだ。

 レダのことも好きだ。

 彼の家族も好きだ。


「レダのおかげでアムルスはいい街になった。俺の命も、仲間も、たくさんたくさん救ってもらえた。だというのに、一番おっかねえ敵と戦わせる? 治癒士のエンジーと? 勇者がいるから大丈夫だって? ふざけんな! そんなこと言うくらいなら死んだ方がマシだぜ!」

「なるほど、勇ましい男のようだ」

「よしてくれ。どこにでもいるおっさんさ。ま、義理人情は大事にしている方だがね」


 ノワールはテックスの肩に乗る。


「災厄の獣は恐ろしい。魔王である私が保証しよう」

「そりゃいい。俺の元嫁さんとどっちが怖いかねぇ」

「私は独身だったので、ノーコメントとしておこう」

「おやおや、魔王様が独身とは……意外だねぇ、侍らせているかと思っていたぜ」

「仕事が忙しくて婚活する暇もなかったのさ」


 テックスは声を大にして笑う。


「もっと早くこうして話したかったね。酒でも酌み交わしたかった」

「同感だ」

「で、魔王の旦那」

「ノワールと呼んでくれ。それが、今の名だ」

「んじゃあ、遠慮なく。ノワールは、レダたちでその厄介な獣は倒せると思うか?」

「――思う」


 テックスが唇を鳴らした。


「希望も入っているが、勇者ナオミとレダ、そしてエンジーがいる。三人の力は、正直未知数ではあるが、ひとつの時代に同じ場所で強い聖属性の力を持つ者が集まるのは稀だ」

「奇跡ってやつか」

「そう、奇跡と言える。ならば、その奇跡に期待しよう」

「おいおい、奇跡頼りかよ」

「無論。それだけではない。勇者ナオミは言わずもがな、私はレダにも、そしてレダ以上にエンジーに希望を抱いている」

「……エンジーは一皮剥けていい顔をするようになった。まさか災厄の獣と戦うことを選ぶとは、悪いとは思うがしていなかった」

「私もだよ。彼は、紛れもなく勇気ある者。――勇者さ」






 〜〜あとがき〜〜

 テックスとノワールが参戦します!


 双葉社モンスターコミックス様より「おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ~中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる~」の最新10巻が発売いたしました!

 ぜひ応援していただけますと嬉しいです! 何卒よろしくお願いいたします!

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