84「訓練の始まり」③




 ナオミが獲ってきてくれた魚を塩焼きにして、レダたちは簡単な食事をした。

 たった三人でこんなに食べるのか、と不安になるほど魚がいたが、魔力が枯渇していたレダとエンジーの手によって八割の魚が食べられることとなった。


 ナオミ曰く、魔力の回復は、肉だと受け付けない場合があり、鮮度がいい魚のほうが好ましいらしい。

 彼女の経験談だった。

 なんでも、加工して時間が経った肉からは魔力が抜けているらしい。

 普段、食事として食べる分には問題ないが、魔力枯渇時には魔力の成長が起きることもあるので、魔力をきちんと補えるものを食べたほうがいいらしい。

 そして、よく寝ること。


 ナオミの故郷では、魚を中心に食べていたこともあり、信頼した食材であるという。


「そういえば、ナオミの故郷の話って聞いたことなかったね」

「そうだったか?」

「うん。勇者っていうのは知っているんだけど」

「うーん。でも、特別なにか話すことはないのだ」

「そ、そう?」

「故郷は災厄の獣によって滅ぼされているのだから、もうなにも残っていないだ!」

「――なんてことを。ごめん」

「あははは、気にしなくていいのだ。寒いだけの村だったし、退屈な日々だったのだ。――でも、みんなの仇は取りたいと思っているのだ」


 隣に座るナオミの頭をレダは優しく撫でた。

 ナオミは子猫のように目を細める。


「今の私には家族がいるのだ。故郷と呼べる街があるのだ。だから幸せなのだ!」

「そうだね。俺も同じだよ」





「――だからこそ、災厄の獣は絶対にここで殺してやる」





 ぞっとするような殺意がナオミから漏れた。

 うたた寝をしていたエンジーが飛び起きて鍋の蓋を構えてしまうほど、明らかな殺意だった。


「……ごめんなのだ」

「いいんだよ」


 驚いているエンジーに「なんでもない」とジェスチャーをして、沸いたお湯で紅茶を入れる。


「あ、ありがとうございます」

「ありがとうなのだ!」

「いえいえ」


 ナオミにも生きていた分だけいろいろなことがあったはずだ。

 もっと早くに尋ねるべきだったと思うし、今はその時ではないとも思っている。

 過去を割り切っていると言う彼女の過去を、今、いたずらに問うことはする必要がない。

 ナオミが話したくなったら聞く。それでいいのだ。

 レダにとって、ナオミは大事な家族だ。

 それだけでいい。


「ふわ」


 エンジーが欠伸をする。

 うたた寝していたところを驚いて起きたが、暖かいお茶を飲んで心地良くなったのだろう。再び睡魔に襲われている。


「明日も早いのだから、もう寝るのだ! 今日は最低限しか教えていないのだから、明日はもっともっと厳しくするのだ!」


 にかっ、と笑うナオミに、レダとエンジーが顔を引き攣らせた。


「今日よりも厳しいとか」

「死んじゃいます!」

「そう言って死んだ者はいないのだ! 安心、安心!」


 レダとエンジーは顔を見合わせて、しっかり眠り体力をできるだけ戻そうと決めた。






 〜〜あとがき〜〜

 そろそろ。――来ます。


 コミック最新9巻が発売中です!

 ぜひお読みいただけると嬉しいです! 何卒よろしくお願いいたします!

 双葉社がうがうモンスター様HP・アプリにてコミカライズ最新話もお読みいただけますので、よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る