82「訓練のはじまり」①
レダとエンジーはナオミに連れていかれ、アムルスから少し離れた森の中にある小さな湖の傍にいた。
数日、この場でキャンプをしながら訓練する予定だ。
先日、モンスターが暴走したこともあり、この辺りは平和だ。
だからといって、のんびりするつもりはない。
「さっそく訓練開始なのだ!」
ナオミが意気込んで、両腕を上げる。
対して、レダとエンジーは、ここにくるまで彼女に襟首を掴まれて高速移動となったので、吐き気と戦っていた。
「ちょっと待って、吐きそう」
「僕、もう、おえっ」
「ふたりともだらしないのだ。じゃあ、私は泊まる準備をしておくのだ!」
てきぱきと作業を始めるナオミを見送り、レダとエンジーがその場に倒れた。
弱々しく手を伸ばして、お互いにヒールをかける。
「……幸先悪いですね」
「だね。だけど、頑張らないと」
「そう、ですね」
ふたりは踏ん張って、立ち上がる。
その間にナオミは手際良くキャンプの支度を終えていた。
「お! もう元気になったのか?」
「まだ少し気持ち悪いけど、遊びに来たわけじゃないからね」
「頑張ります!」
「うむ! 良い根性なのだ! ――ならば、始めるのだ!」
ナオミが聖剣を抜き、地面に突き立てた。
「私は言葉での説明が苦手なので、感覚的に学んでもらうのだ!」
「……予想はしていたけど」
「……予想通りでしたね」
顔を見合わせて頷くレダとエンジーを、聖剣から発せられた金色の光が包んだ。
「……これは」
「暖かい?」
まるで適温のお湯の中にいるような心地よさがある光だった。
どこか安堵できる優しさを覚える。
レダの脳裏には母フィナの顔が浮かぶ。
幼い頃、母に可愛がってもらった思い出が溢れてくる。
忘れていた記憶でさえ蘇り、涙が零れた。
胸を締め付けられるような、切なく、幼い日に帰りたいという感覚さえ覚えてしまう。
金色の光が収まると、隣ではエンジーも涙を流していた。
しかし、どこかつらそうだ。
「大丈夫か、エンジー?」
「あ、はい。昔の、両親が優しかった頃のことを思い出してしまって。あの時は、僕が治癒士の才能がなくても可愛がってくれていたんです。だから、どうして、今の両親のようになってしまったのかって考えると、悲しくて」
「……そうか」
エンジーの家庭環境は浅くだが聞いている。
時間があれば、もっと話を聞いてあげたかったが、今はその時間ではない。
訓練が終わったあとで、ゆっくり話を聞こう。
そう思い、レダは励ますようにエンジーの肩を強めに叩いた。
「まずは聖属性という力を感じてもらったのだ。ふたりならもうモノにしたと思うのだから、続いて実践編なのだ!」
「――え?」
「――へ?」
〜〜あとがき〜〜
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