81「災厄の獣が近づく」





「災厄の獣」は食事をやめた。

 小さな集落を襲っても、腹が満たせないと考えたのだ。


 空腹に苦しむ中、理性が飛んでいたのだが、不意に理性が戻ってきた。

 その理由は、かつて自分を苦しめて、後一歩のところまで追い詰めた憎き相手の気配を感じたからだ。


 それだけじゃない。

 あの女の傍には、「災厄の獣」が嫌う、聖属性の力を持つ者が数名いる。


 笑う。

 笑う。

 笑う。


 人間は勘違いしている。

 魔族も勘違いしている。


「災厄の獣」に普通の攻撃は通じない。

 だが、圧倒的な火力と、聖属性の力なら、ダメージとなる。

 殺すこともできる。


 その理由は、「災厄の獣」自身にもわからない。

 そういうものだ。


 魚が陸に上がれないように、人間が水の中に住めないように、「災厄の獣」も聖属性が弱点だ。





 ――そして、同時に大好物である。





 弱点だから嫌いなわけではない。

 それは関係ない。


「災厄の獣」にダメージを与えるほどの聖属性の力を持つ者は、強い魔力を持っている。

 人間の中でも上澄の存在だ。


「災厄の獣」とって、動物の希少な部位と同じ感覚だった。



 ――食べたい。


 ――とても食べたい。


 ――狂おしいほど食べたい。



 最後に聖属性の力を食べた記憶は、もう思い出せない。

 少し前に会った勇者も、食べることができなかった。

 だが、勇者の血はとても濃厚で甘美だった。



 思い出し、ごくり、と喉を鳴らす。



「災厄の獣」は足を止めて、向かう場所を変えた。

 自分は獣である。

 世界を滅ぼすことができる獣である。

 絶対的な強者である。





 ――ゆえに我慢はしない。





「災厄の獣」は上質な餌がいるアムルスに向かって、走り出した。






 〜〜あとがき〜〜

 レダたちに訓練する時間はあるのか!?



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