74「エンジーの決断」③





「起きるのだ、エンジー! 話は終わっていないのだ!」


 ごつん、と言う音と痛みが頭に響き、手放しははずの意識が戻ってきてしまった。

 すると、エンジーの脳裏にはナオミに言われた言葉が反芻する。


「ぼぼぼぼぼぼ、僕が、そんな、えっと、おえっ」


 エンジーは混乱のあまり、えずいた。

 冗談にしては悪い冗談だ。冗談でなければ悪夢だ。

 自分に聖属性の才能があるなど、知りたくなかった。

 ようやく治癒士として一歩を踏み出せたエンジーには荷が重すぎる。


「安心していいぞ、エンジー。その気になれば、教皇も目指せるのだ!」

「なにも安心できません!」

「冗談なのだ。それはさておき、力は絶対じゃないのだ。とくに聖属性に関しては、エンジーの力はかなりすごいのだ。時代によっては聖人扱いされていてもおかしくないのだぞ!」

「うれしくないです。――おえ」


 口元を手で押さえる。

 せっかく振る舞ってもらった手料理を吐き出すことはしたくなかった。


「それで僕にそんなことを教えてなにをしろって言うんですか?」

「話が早いのだ」

「い、言わなくてもいいです。戦力に加われっと言いたいんでしょう?」

「レダは反対しているのだが、私は使えるものはなんでも使うのだ。とくに、勝ち目が少ない戦いでは、なのだ」


 魔王を瞬殺した勇者が、「勝ち目が少ない」というだけでも、吐いてしまいそうだ。

 そんな戦いに臆病者の自分が加わって何になるというのだ。

 囮にもならないはずだ。


「私が知る中で、二番目に聖属性の力が強いエンジーなら、間違いなく助けになってくれるのだ!」

「待ってください!」


 エンジーは、ナオミの言葉を聞き流せなかった。

 今、ナオミは、彼女が知る中で二番目に聖属性の力が強いのがエンジーだと言った。

 ならば、一番は誰だ。


「ぼ、僕より強い聖属性の力を持つ人がいるんですか!」

「いるには、いるのだ」

「ならその人に戦ってもらってください!」

「無理なのだ!」

「僕みたいな根性なしの臆病者よりも戦えない人なんていませんよ!」

「……自分をそう卑下することはないのだ。エンジーはよく頑張っていると思うだ」

「……慰めないでください! それで、誰なんですか!」


 ナオミはしばし悩むように口を閉じたが、言うつもりはあったのだろう。


「レダには絶対に言ったらダメなのだぞ!」


 そう前置きをした。






「私が知る人間の中で、一番強い聖属性の力を持つのは――ミナなのだ」







 〜〜あとがき〜〜

 ミナは今まで不思議な力がありましたが、すべて聖属性によるものでした!


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