73「エンジーの決断」②





 急にナオミに呼ばれ、エンジーは動揺した。

 ついなにか叱責をされるのだろうか、気に触ることをしてしまったのだろうか、と考えてしまう。


 だが、そんなことはないとわかっている。

 マイナスなことを考えてしまうのは、エンジーの悪癖だ。

 アムルスに来てから、いや、家から出て学校に治癒士見習いとして学んでいる時も、理不尽な叱責をされたことはない。


 エンジーが間違えば、ちゃんと教えてくれる友人たちがいる。

 ここには、優しい師匠と、優しい師匠の家族がいる。

 かつての自分の家族のように、治癒術を使うときだけ笑顔になる者はいない。


「……ナオミ様、どうしました、か?」

「話があるのだ」

「お話、ですか?」


 今のナオミからはいつもの明るさはない。

 どんなときでも太陽のように明るく、誰よりも戦い、強い勇者であるナオミが年相応の少女に見えた気がした。


「は、はい、どうぞ」

「きっとレダは反対するから、内緒で来たのだ。あくまでも、私個人のお願いをしにきたのだ」

「……はい」


 おそらくだが、察しがついた。


「災厄の獣のことなのだ」

「は、はい。そうだと思いました」


 声を顰めたエンジーに、ナオミが近づく。

 喧騒がどこか遠くへ離れた気がした。


「レダには言っていないことがあるのだ」

「えっと、はい」

「私は勇者だから、聖剣もあるし、聖属性もある。他にも力があるのだから、強い自負があるのだ。魔王も瞬殺だったのだし」

「で、ですよね」

「だけど、すべてにおいて誰よりも優っているわけじゃないのだ」

「どういう、意味ですか?」


 ナオミはどう説明したものかとわずかな時間悩んだが、言葉をありのまま伝えることにしたようだ。


「総合力なら私が一番なのだ。だけど、魔力ならレダのほうが上なのだ」

「……レダ先生ってそんなに魔力があるんですね」

「そうなのだ! そして、――聖属性の力だけなら、私よりもエンジーのほうが上なのだ」

「――え?」

「もっと言うと、エンジーの聖属性の力は、教皇のおっちゃんよりも上なのだ」

「――ひえっ」


 嘘だなんて思わない。

 ナオミがそんなことを言うメリットはなにもない。


 だが、事実であれば、大変なことだ。

 エンジーは情報を脳で処理できず、意識を手放した。






 〜〜あとがき〜〜

 まだまだ情報が明かされます!


 コミック最新9巻が発売いたしました!

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 双葉社がうがうモンスター様HP・アプリにてコミカライズ最新話もお読みいただけますので、よろしくお願いいたします。

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