70「家族との時間です」②





 食事を終えたレダは災厄の獣に関して家族に伝えるべく、大きく深呼吸をした。


「――みんなに大事な話があるんだ」


 それぞれが手を止めて、レダの話を聞く体制をとってくれる。


「みんなのおかげで、冒険者たちがたくさん救われた。ありがとう」


 言葉通り、ルナやミナたちがいなければ、救えない命があったかもしれない。

 それはエンジーたち他の治癒士たちの存在も同じだ。

 街の外で亡くなってしまった冒険者たちについては、ただただ悔しいし、悲しいが、レダたちは救える命は全て救った。

 なので後悔はしていない。


「今回、モンスターが急に異常行動を起こしたことで冒険者たちに大きな被害が出ることになったんだけど、その原因が問題なんだ」

「……パパはその原因を知っているのぉ?」

「うん。俺というよりも、ナオミが知っていて教えてもらったんだけどね」


 ナオミに家族の視線が集まると、彼女は頷き肯定した。

 情報を一番持っているのはナオミだが、家族に伝える役目はレダということで説明は任せるというスタンスでいてくれている。

 思いがけずこの場に居合わせてしまったエンジーは、胃が痛いと言わんばかりの顔をしているが、しばらく我慢して欲しい。


「――災厄の獣が近くにいる」


 ガタン、と椅子を蹴飛ばすように立ち上がったのはアストリットだった。

 やはり王女のアストリットは災厄の獣が、御伽話に出てくるだけの創造の産物ではないことを知っているようだ。


「れ、レダ、本当に「あれ」が来るの?」

「来ると思う。今は、他の場所で猛威を振るっているようだけど、時間の問題だろうね」

「……そんな、まさか」


 彼女の顔色は青を通り越して白くなってしまった。

 力なくテーブルに手を置くアストリットのために、蹴り倒してしまった椅子をヴァレリーが元に戻してくれた。


「アストリット様、お座りくださませ」

「ありがとう……ごめんなさい」


 冷静さを失ったことを謝罪し、アストリットが着席をする。


「あたしは災厄の獣って知らないんだけどぉ?」

「わたしも知らないよ?」


 ルナとミナは聞いたこともないようだ。


「……昔聞いたことがあるような、ないような」


 エルフのヒルデは記憶が曖昧らしい。


「というかぁ、名前だけで相当面倒くさい存在だってことはあたしでもわかるんですけどぉ」

「だよね。ナオミが戦って倒せていない相手だからね」

「――っ」


 一同が息を呑む。

 勇者であり、魔王ですら瞬殺してトラウマを植え付けたナオミが倒せなかった存在というだけで、どれだけ恐ろしい存在なのか理解ができたのだろう。


「そんな獣を相手にパパはどうするつもりぃ?」


 ルナの問いかけに、レダはまっすぐ家族たちを見つめて告げた。


「――俺は最悪の獣と戦うことにした」






 〜〜あとがき〜〜

 エンジーくん、シリアスな展開に胃痛を覚えています。


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