71「家族の信頼」
ディクソン家の食卓に、痛い沈黙が生まれた。
空気が張り詰める雰囲気に、エンジーがたまらず胃を押さえた。
「そ。ちゃんと帰ってきてね」
「え?」
ルナの言葉にレダは目を丸くした。
「レダ様ならば見事災厄の獣を倒してくださると信じています」
「……あ、うん」
ヴァレリーが続けて笑顔を浮かべる。
「私も手伝ってやりたいが、聖属性ではないのでな。足を引っ張ることはしない。なんだ、妻はどっしり構えているものだ! いってこい!」
ヒルダは戦士を送り出すようにレダに強く頷く。
さすがにこれには、ことの成り行きを見守っていたナオミとエンジーも驚いていた。
「なんで驚くのよ。もしかして、行かないでって反対されると思っていたの?」
「それは、まあ」
「でも、戦うんでしょう?」
「うん」
「なら、私も妻として夫を信じて待つわ。だって、レダはいつだって自分のすべきことをしてきたんだもの」
アストリットが苦笑した。
愛する家族は、レダがどのような選択をするのかわかっていたのだ。
きっと、災厄の獣の話をする前から、前線に立つと考えていたのかもしれない。
予想外だったのは、相手が災厄も獣であることだけ。
それでも、妻として、レダを信じ送り出すことはかわらない。
「お父さん」
「――ミナ」
「ナオミちゃん」
「ミナ」
一番心配性である愛娘が、数日後には命を落としかねない父と家族をまっすぐに見つめた。
「わたし、信じているから! お父さんとナオミちゃんはどんな敵にも負けないって! ちゃんと帰ってきてくれるって!」
不安はあるだろう。
それでもミナは、笑顔を頑張って浮かべていた。
ミナだけじゃない。
想像もできない獣と戦うレダとナオミのことを心配しない家族はこの場にいない。
それでも、自分の意思で戦うと決めた家族の邪魔はしないと決めているのだ。
レダとナオミはミナを強く抱きしめる。
――この子は本当に強くなった。
「ミナ、ルナ、ヴァレリー、ヒルダ、アストリット――みんな、ありがとう」
初めて出会ったときは不安そうに怯えていたか弱い少女だった。
人の優しさに触れ、笑顔を浮かべるようになり、強くなった。
いずれレダのようになりたいという目標も持ってくれた。
まだ出会って一年だが、娘の成長には目を見張るものがある。
そう遠くないうちに、ミナはレダのもとから巣立っていくのだと感じ、寂しくもある。
「パーパっ! ミナだけじゃないからね! あたしたちだって、パパとナオミが揃っていればどんな敵にも負けずに帰ってきてくれるって信じているんだからぁ!」
「そうですわ! わたくしを助けてくださったように」
「私を助けてくれた時のように」
「エルフの集落を救ってくれたときのように!」
「今回だって、災厄の獣だろうとなんだろうとけちょんけちょんにやっつけて帰ってくるんでしょう?」
家族の言葉に、レダとナオミは「もちろん!」と返す。
負けるつもりはない。
戦うなら勝つ。
勝たなければ、意味がない。
家族の信頼を得て、レダの心から不安は消えた。
――そんなディクソン一家を見て、エンジーは拳を固く握りしめていた。
〜〜あとがき〜〜
今週は一話で申し訳ございません。
コミック最新9巻が発売いたしました!
ぜひお読みいただけると嬉しいです! 何卒よろしくお願いいたします!
双葉社がうがうモンスター様HP・アプリにてコミカライズ最新話もお読みいただけますので、よろしくお願いいたします。
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