65「新たな聖属性持ち」①





 レダはナオミと共に、ローゼンヴァルト辺境伯家から帰路についていた。

 ナオミの感覚では、災厄の獣の襲来まで一週間ほど時間がかかるようだ。


 これが人やモンスターであれば、対策はいくつか取れただろう。

 しかし、未知の怪物となると、なにをどうしていいのかわからない。


 レダが悩む以上に、ティーダも悩んでいた。

 彼はこれから近隣の領主へ手紙を書いて送るそうだ。

 問題は、災厄の獣の存在を、どれだけも者が信じてくれるかだった。


 ナオミを信頼しているティーダでさえ、災厄の獣が来ると言われて最初は疑ったのだ。


 レダは、他の貴族は知らない。

 アムルス周辺の貴族たちは民にとって良い貴族であると聞いているが、だからといって災厄の獣が来ることを信じてくれるかどうかはまた別の話だ。


 王都にも連絡がいくだろう。

 一週間では難しいだろうが、うまくいけば王宮が兵を出してくれる可能性もあるらしい。

 しかし、ナオミにしてみると、「ただの人間」が束になろうと災厄の獣に勝てるわけがなく、犠牲が増えるだけだと言う。しかも、その犠牲は災厄の獣にとって糧としかならないらしく、王宮はアムルスに手出ししないことが一番頭のいい選択らしい。

 教会トップの教皇ならば、ナオミと同じ意見のはずなので止めてくれるだろう、とも言っていた。


「問題は……」

「……ぜーったい、ミナとヒルダは一緒に戦うと言うのだ!」


 ルナは元暗殺者。

 ヒルダはエルフの戦士。

 両者とも実力には自信があり、実際アムルスの冒険者たちでは相手にならない。

 だが、災厄の獣を相手にすれば、待っているのは「死」だけだとナオミは断言した。


「ルナは水属性、ヒルダは風属性なのだ。ふたりとも強いのだが……相手が悪すぎるのだ」

「……俺としても、ルナもヒルダも戦わせたくない」


 仮に、ふたりに聖属性があったとしても、戦える手段があったとしても、レダは絶対に戦わせなかっただろう。

 傲慢と思われようが、ひとりの男として、愛する妻を死地には送れない。

 恨まれようと、結果的に愛想を尽かされようと、その一線は譲れなかった。


「わたしも全員の属性を知っているわけではないのだ。もしかしたら、他にも聖属性がいるかもしれないのだ……でも、悠長に探している時間もないのだ」

「そうだね。俺に戦い方を教えてもらう必要もあるし」


 今は時間が惜しい。

 間違いなく家族には戦うことを反対されるだろう。

 それでも、同じ家族であるナオミが戦い、友人のティーダが心血を注いだこの街を、レダにとって故郷となったこのアムルスを守るために、戦わないという選択肢はない。


「……個人的には、災厄の獣と戦うよりも、ルナたちに怒られる方が怖いよ」

「あははははは! わたしもなのだ!」

「……ははははは……はぁ」


 レダとナオミが笑ってみるも、続かない。


「れ、レダ先生! お、おお、おかえりなさい」

「エンジー」


 冒険者ギルドに着いたレダたちを待ってくれていたのは、エンジーだった。

 彼は見事に治癒を行い、治癒士として大きな一歩を踏み出したが、今はいつものエンジーに戻っている。


 無理もない。

 人間は簡単に変われない。

 だが、エンジーのように「いざ」というときに頑張れる人間は、絶対に良い方向に変われるとレダは信じていた。


「え、えっと、怪我人の方々は問題ありません。テックスさんも、今はゆっくり眠っています」

「そっか。よかった」

「……あ、あ、あ」


 報告をしてくれるエンジーに礼を言うレダの隣では、目を見開いて口をぱくぱくさせているナオミがいた。

 彼女のこんな姿は珍しい。


「ナオミ? どうし――」

「聖属性持ちがここにもいるのだーーーーー!」

「えぇええええええええええええええええ!?」


 ナオミがエンジーを指差し、叫んだ。

 レダも驚きに絶叫する。


「え? なんですか? え? え?」


 エンジーだけが、なにがなんだかわからずぽかんとしていた。






 〜〜あとがき〜〜

 実は、あと四人聖属性持ちがいます。


 コミック最新9巻が発売いたしました!

 ぜひお読みいただけると嬉しいです! 何卒よろしくお願いいたします!

 双葉社がうがうモンスター様HP・アプリにてコミカライズ最新話もお読みいただけますので、よろしくお願いいたします。

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