64「ノワールの決断」
元魔王ノワールは、ディクソン一家の可愛い子猫として愛されている。
最近ではすっかり子猫生活も板につき、近所の雌猫からアプローチされてまんざらでもない日々を送っていた。
「……子猫ライフを満喫したかったが、それどころではないようだな」
「――私としては、魔王様に再び魔族の王として君臨して欲しいのですが」
「すでに敗者だ」
「しかし」
「その話は後にしよう」
ノワールは、力を取り戻しつつあった。
肉体こそ子猫であるが、最近は魔力を取り戻しつつある。
「……「あれ」は随分飢えているようだ」
レダやナオミ、またフィナやボンボの近くにいることでノワールは魔力を取り込み自らのものとしていた。
可愛い子猫でありながら、すでに魔獣と化している。
魔王であったときの全盛期に比べると、足元にも及ばないが、それでも平均的な実力の冒険者であれば負けないくらいの力を取り戻している。
すべての魔力を使い、「あれ」を見張っていた。
魔術を使っていながら、物理的な距離があまりにも離れていながら、ノワールは息を殺している。
万が一、こちらに気づかれてしまわないように、と根本的な怯えがあった。
「あれ」は飢えている。
無理もない。
巨体と、呼吸をするように魔力を大きく消費する殺戮を繰り広げているのだ。
魔力が枯渇し、空腹を覚えるのは仕方がないことだ。
どうやら「あれ」はじっとしていることができないらしい。
人間も魔族も疲れれば休みを取るが、「あれ」は違う。
食べることも、殺すことも、飽きるまで続ける。
飽きてはじめて、休憩を取るのだ。
「あれ」にとって魔力不足は獲物を食えば解決する。
殺戮をし、食い散らかし、また殺戮を広げる。
狂ったように殺し、食うだけの化け物だ。
――世界にとって害悪でしかない。
「シェイプ」
「――はっ」
「残りの四天王を集めろ」
「――っ」
「勇者ナオミ・ダニエルズは「あれ」と戦うそうだ」
ノワールの視線の先では、「あれ」がアムルスとは違う場所を目指して走っている。
木々を薙ぎ倒し、動物を食いちぎり、モンスターを飲み込みながら、先にある小さな集落を目指している。
ここからではどうしても助けることはできない。
仮に、駆けつけたとしても、敗北するだろう。
逃げろと言ってやることさえできない。
ノワールは、怒りに支配されそうになるが、必死に耐えた。
「兵はいらぬ。無駄死には避けたい。少数精鋭で、「あれ」を叩く」
「…………」
「無論、強制はしない」
「魔王様、誤解されては困ります。このシェイプの命は魔王様のものです。他四天王も同じです」
「――そうか」
「猶予は?」
「一週間ほどあるだろう」
「ならば、二日で連れて参ります」
「頼んだ」
「魔王様の命とあれば、喜んで」
シェイプは深々とお辞儀をすると、音もなく消えた。
「……災厄の獣よ。私がこの世界に召喚された意味はもしかしたら、お前を倒すためだったかもしれないな」
ノワールは届くはずのない呟きをする。
だが、遠くにいる災厄の獣が足を止める。
「――っ」
振り返った災厄の獣は、まるでノワールの目に気づいているように振り返った。
――目が合った。
ノワールの心臓が早鐘のように脈打つ。
かつての恐怖が蘇り、身体中が恐怖で震えた。
災厄の獣は嘲笑するように嗤うと、再び背を向けて走り出す。
「私など歯牙にも掛けないか。――屈辱だ」
〜〜あとがき〜〜
コミック最新9巻が発売いたしました!
ぜひお読みいただけると嬉しいです! 何卒よろしくお願いいたします!
双葉社がうがうモンスター様HP・アプリにてコミカライズ最新話もお読みいただけますので、よろしくお願いいたします。
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