61「報告」①
「――まずいことが起きているのはわかった。ありがとう、ナオミ。すぐにティーダ様に伝えてくる」
「私もいくのだ!」
「助かるよ!」
レダは、ギルド職員に領主であるティーダの屋敷に向かうと告げ、ナオミと共に走っていく。
街の様子は暗い。
いつもならば、日が落ちても賑わっているはずのアムルスが、驚くほど静まり返っている。
盗賊に襲われても逞しく対応していた街の人々が、悲しみに暮れている。
泣いている女性と慰める人々。
やけ酒とばかりに酒を煽り、泣く人もいる。
(亡くなった冒険者のご家族や友人か……)
悲しんでいる人たちにかける声が見つからない。
走っているレダを見つけた、住民たちが、悲しみに暮れる人たちのことは任せておけとばかりに頷いてくれた。
レダは頷き返し、ティーダの屋敷に急いだ。
「――レダ! ナオミ殿! よく来てくれた!」
屋敷についたレダとナオミを、ティーダが出迎えてくれた。
だが、彼は普段の格好と違い、鎧を身につけている。
「……ティーダ様、まさか戦うつもりですか!?」
「無論。領主として、民が苦しんでいるのなら、共に戦うに決まっている」
「ですが、ティーダ様になにかあったら」
「安心してくれて構わない。隠居している父に万が一があったら、領地を頼むと手紙を送った。私の代わりなど、いくらでもいる。だが、民の代わりはいない!」
良い領主だと思うが、ティーダの代わりがいないのも事実だ。
普段は決して考えないが、力づくでも彼を止めるべきだとレダは考える。
「待つのだ」
「……ナオミ殿」
「モンスターの群れはもう来ないのだ。奴らは一掃したし、こちらに向かってこなかった奴らも他のところへ逃げていったのだ」
「逃げた? つまり、アムルスは大丈夫なのか?」
「……それは」
歯切れの悪いナオミに、ティーダが詰め寄る。
「ナオミ殿、なにかあるのなら隠さず話してくれ!」
「……あれが来る可能性があるのだ」
「あれ?」
「お前も領主なら知っているはずなのだ」
「一体なんのこ……と?」
言葉を止めたティーダの顔から血の気が引いた。
真っ青になった彼は、震える唇を開いた。
「……まさか、災厄の、獣か?」
「そうなのだ。あれが、来る可能性があるのだ」
「馬鹿な……本当に存在したのか。私は、貴族を戒めるための創作とばかり……」
ティーダも災厄の獣の存在は知っていた。
だが、実在しているとは思っておらず、真偽を疑うことさえしていなかった。
聞けば、貴族の大半は彼と同じようだ。
そもそも長く人を襲っていない災厄の獣は、忘れられつつあるという。
「……教皇は知っているのだ」
「まさか、ナオミ殿は」
「あれと戦ったのだ」
「…………」
「負けてはいないのだが、勝ってもいないのだ」
ティーダの顔に絶望が宿る。
魔王をトラウマを与えて倒した勇者が勝てなかった相手に、どうすればいいのだ、という顔をしていた。
気持ちは痛いほどわかる。
「アムルスは私が死んでも守るだ。奴は、魔術が通じないのだが、唯一弱点があるのだ」
「弱点?」
レダが尋ねると、ナオミは頷いた。
「――災厄の獣は「聖」属性が弱点なのだ!」
〜〜あとがき〜〜
コミック最新9巻が発売いたしました!
ぜひお読みいただけると嬉しいです! 何卒よろしくお願いいたします!
双葉社がうがうモンスター様HP・アプリにてコミカライズ最新話もお読みいただけますので、よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます