60「獣」③
「災厄の獣?」
レダは聞き覚えのない単語に、不安を覚えた。
十年ほど冒険者をやってきたが、「災厄の獣」というモンスターは一度も聞いたことがない。
「……やつは恐ろしい獣なのだ。モンスターでも、魔獣でも、もちろん魔族でもない。いつからいるかわからない化け物なのだ」
「……ナオミ」
レダは言葉を失う。
魔王にトラウマを与えるほど強い勇者のナオミが「恐ろしい」「化け物」と呼ぶ「災厄の獣」が想像できない。
周囲に聞こえないように、レダは声を顰めた。
「その、災厄の獣がアムルスに向かっているってこと?」
「それはわからないのだ。やつは気まぐれで、餌を食うことを第一にしているのだ」
「……餌?」
「人間、魔族、モンスター、生きている生物ならばすべてなのだ」
「……本当にそんな獣がいるの?」
レダの問いに、ナオミは頷く。
心なしか、ナオミの声音が硬い気がする。
「やつは常に飢えているのだ。同時に、人間と同じ知性もあるのだ」
「それは……なんて面倒な」
「レダだから言うのだが、冒険者ギルドでも上層部の人間や、各国の王家や高位貴族、教会の上層部くらいしか災厄の獣は知らないのだ」
「…………俺に教えちゃっていいの?」
「問題ないのだ。ティーダにも話さなきゃならないのだ」
ナオミの言葉の意味を考えると、やはり災厄の獣の脅威がアムルスに近づいているのだろう。
「やつがアムルスにくるかどうかは私にもわからないのだ。でも、今回のモンスターたちは、やつから逃げ出してきただけなのだ」
「……え?」
「人間を襲ったわけでも、アムルスを襲おうとしたわけではないのだ。ただ、災厄の獣から逃げようとして、その途中に邪魔な人間がいたから戦いになっただけなのだ」
彼女の言葉が本当であれば、とんでもないとばっちりである。
なによりも、そんな脅威がくるのかこないのかわからないことも恐ろしい。
「災厄の獣はくると思う?」
「正直なことを言うと、くると思うのだ」
「…………なぜ、そう思うのかな?」
「この辺りで、やつにとってアムルスが一番の狩場なのだ。やつは強い人間を、魔力を持つ人間を好むのだ。魔族も食うけど、人間のほうが好きだと思うのだ。だから、開拓のためにたくさんの冒険者や、魔法使い、そしてレダのような治癒士が集まる街は――奴にとって、食糧庫のようなものなのだ」
鏡を見ていないのに、レダは自分の顔が青ざめているのがわかった。
「ひとつ、聞きたいんだけど。災厄の獣って、魔王よりも強いかな?」
「あれに比べたら、魔王なんて雑魚なのだ」
レダは、すぐに災厄の獣に対しての対応を取る必要があると理解した。
〜〜あとがき〜〜
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