59「それ」②
「それ」は、動きを止めて、まるで人のように首を傾げていた。
――獲物が消えた。
人間を食い散らかし、魔族を弄び、まるでランチでもつまむようにモンスターを喰らいながら進んでいたのだが、不意に餌がいなくなったことを理解した。
「それ」は巨体もさることながら、魔術を使い、力を振るうことに体力を大きく消耗する。
ゆえに、腹が減るのだ。
だが、腹ごしらえしたくても、餌がいなければ空腹が満たされることはない。
「それ」は唸った。
一度唸っただけで、森がざわつき、木々が悲鳴をあげるように軋み、森に宿る精霊たちが絶命していく。
わずかに唸るだけの行為で、「それ」がいた森の一角が、二度と緑に覆われない不毛の血となることが決定した。
「それ」は考えた。
人と同じ知性を持つゆえに、考える。
腹が減れば苛立つが、腹を満たすには行動しなければ駄目だと理解している。
鼻を鳴らすと、人間と魔族が手を取り合って暮らしている小さな集落を見つけた。
この場に、ティーダ・アムルス・ローデンヴァルトや元魔王ノワールがいれば、彼らの抱く理想が小さいながら形成されていることに感動するだろう。
しかし、「それ」には人間と魔族というふたつの餌がいるだけにしか見えなかった。
「それ」は笑う。
さほど遠くない場所に、餌がいるのだ。
しかも、自分から逃げ出したモンスターの進行方向から外れていたおかげで、異変に気づかずのうのうと変わらぬ日々を送っている。
集落には混血もいるようで、高い潜在能力を持っている子もいた。
「それ」にとって、力を持つ者は美味であると同時に、糧としても秀逸だ。
逃すてはない。
「それ」は、静かに気配を消し、その巨体からは絶句するほど音もなく動き始める。
ちょうどいい餌を見つけた「それ」は上機嫌となり、食事に向かった。
――これにより、「それ」がアムルスを目指すのに少しだけ時間が延びることとなる。
――だが、人間と魔族が手を取り合う理想の集落は、壊滅し、生命はすべて「それ」の餌となった。
〜〜あとがき〜〜
少しずつアムルスに近づいています。
次回はレダサイドです。
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