57「獣」①
テックスは、ギルド職員によって運ばれていった。
彼に必要なのは、休息だ。
体力と失った血を取り戻すために、よく食べてよく休んでほしい。
「ふぅ」
レダは、近くにあった椅子に座ると、脱力してしまう。
何度も、治癒を施してきたが、これほど緊張したときはなかった。
やはり、命を左右する治療は責任が伴い、重い。
「……レダ」
「ナオミは怪我はないかな?」
いつもなら元気いっぱいのナオミが、俯いてしまっている。
彼女にとっても、テックスの重傷は大きなショックだったようだ。
「私は大丈夫なのだ。だけど、たくさん救えなかった」
「……誰もナオミのことを責めないよ」
ナオミが魔王を倒した勇者であっても、全知全能の神ではない。
救える者には限りがある。
それは、レダたち治癒士たちも同じだ。
だが、気にするな、と安易に言えるはずがない。
レダ自身、街に戻って来られず亡くなった冒険者たちのために、もっとなにかできなかったか、と悔やんでいる。
命を大事にしてほしいからと、少し締め付けが強すぎたのではないか。
初歩的な治癒だけでも、使える冒険者を探すなり、育てるなりしていれば、現場で死ぬことはなかったのではないか。
(……いや、やめよう。今、悔やんでも「もし」はないんだ)
「ナオミ……テックスを助けてくれてありがとう。俺は、大事な友達を失わなくて、本当によかったよ」
「……レダ」
レダは、ナオミに言うべきなのは、慰めの言葉ではない。
心からの感謝だと思った。
大切な友人を救ってくれた、勇気ある少女に、心からのお礼を言った。
ナオミは、涙ぐむ。が、袖で目元を拭う。
泣くものか、という彼女の意思を感じた。
「ナオミも身体を休めてほしい。食べられるなら、きちんと食べて。今日は眠って。いいね?」
「……駄目なのだ」
「ナオミ?」
事後処理とティーダへの報告もあるため、動き出そうとしたレダの腕をナオミが掴んだ。
「あれ、がくるのだ」
「あれ?」
「モンスターは、アムルスに向かってきたわけじゃないのだ」
「どういう」
「モンスターたちは、あれ、から逃げていたのだ。恐ろしくてたまらなくて、ただ逃げようと、一目散に走っていただけなのだ」
「待って、待って、ナオミ。なにを言って」
動揺するレダの言葉を遮り、ナオミは告げた。
「――災厄の獣が来るのだ」
〜〜あとがき〜〜
街に戻って来られた冒険者は全て救いました。
しかし、問題は解決していません。
コミカライズ最新9巻が発売となりました!
何卒よろしくお願いいたします!
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