56「テックスの治療」
ナオミが担いできたテックスが、冒険者たちが広げたシーツの上に寝かされた。
その姿に、冒険者たちが小さな悲鳴を出し、レダが青い顔をした。
「――テックス!」
アムルスで一番の冒険者であり、冒険者たちの兄貴分であるテックスの怪我はひどいものだった。
「……なんで、こんな、こんなことに!」
いくらレダが多くの怪我人を治療してきた経験があったとしても、大切な友人が死にかけている状況に動揺するのは仕方がないものだった。
テックスの怪我の具合を見れば、誰でも言葉を失うはずだ。
腕はちぎれかけ、足もおかしな方向に向いている。全身に裂傷があり、血まみれだ。
口や鼻から血を流しているので、内臓もやられているだろう。
――ぱんっ!
レダは自らの頬を叩いた。
動揺は後ですればいい。
今は、友を救うことを考える。
「ナオミ! テックスの足がこのままだと変に繋がってしまうから、位置を正せるかい?」
「もちろんである! 任せるのだ!」
「エンジー、手伝ってくれ! テックスを抑えて欲しい!」
「はい!」
彼の身体に最低限の負担しかかけないよう、身体を抑えた。
ナオミに目で合図を送ると、彼女は、テックスの骨を無理やり元の位置に戻した。
「――――――――――っ!」
意識を失っていたテックスが、目を見開く。
言葉にならない絶叫を上げ、上半身を起こそうとする。
しかし、レダとエンジーがそうはさせない。
しばらく痛みにのたうち回っていたテックスだったが、意識を再び失った。
足の形は元に戻っている。
ナオミを信じ、レダは、魔力をこれでもかと込めてテックスに治療を施した。
「――エクストラヒール!」
全力で施した治癒は、みるみるテックスの怪我を癒やしていった。
「……すごい」
目の前に広がる癒しの瞬間に、エンジーが感動を混ぜた声を出した。
ちぎれかけていた腕はつながり、裂傷もすべて塞がった。
内臓は見えないが、負傷したものならば治るとわかっている。
出血が多いので、しばらく万全な体調に戻らないだろうが、レダができる怪我という怪我はすべて治療できた。
「――これが、レダ・ディクソンの治癒」
エンジーだけではない。
この場にいる、すべての人間が、レダの治癒を見て震えていた。
しかし、レダは周囲の目など気にすることなく、テックスに問題がないか触診していく。
「……よう、レダ」
「テックス!」
「面倒かけちまったな……ナオミの嬢ちゃんも助かった。ふたりには一生もんの借りができちまったぜ」
弱々しくあるが、意識を取り戻したテックスが、笑みを浮かべて礼を言う。
「……これで、娘にまた会える。レダ、ありがとう」
「うん。今は、ゆっくり休んで」
「あ、あ」
テックスは再び意識を手放した。
だが、今回は呼吸は安定している。
血を失い、体力も奪われたので、身体が限界に達したのだろう。
「……よかった」
レダは、安堵の息を吐く。
「本当によかった。今日こそ治癒士でよかったって思った。本当に、大切な友達を救えて、よかった」
〜〜あとがき〜〜
街に戻って来られた冒険者は全て救いました。
しかし、問題は解決していません。
コミカライズ最新9巻が発売となりました!
何卒よろしくお願いいたします!
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