55「テックスの安否」




 全員の治療を終えたレダたちは、死者が一人も出なかったことを安堵した。

 しかし、アムルスの外では死者が出ており、残っている亡骸があれば埋葬するために回収したいと冒険者たちは考えているようだ。


「――助かったよ、レダさん」


 冒険者のひとりが、レダに礼を言う。

 彼はまだ二十半ばの剣士だ。

 アムルスに骨を埋めると言って、早々に移住したひとりであり、妻子もいることをレダは記憶している。


「無事でよかったよ」

「……嫁さんと息子に会えなくなると思ったら……死ぬよりも怖いと思ったよ」

「気持ちはわかるよ」

「だから、本当にありがとう」

「どういたしまして。ところで、アムルスの外で何があったんだ?」


 レダの疑問に、青年は苦々しい顔をした。


「思い出すのが辛いかもしれないけど」

「いや、いいんだ。とにかく、モンスターが群れをなしてこっちに向かってきているんだ」

「それは聞いているんだけど、そんなに大きな群れなのか?」

「大きい群れっていうのもそうなんだが、本来なら群れないモンスターどもがそろってアムルスに向かってきているんだ。普段なら、食ったり食われたりするモンスターが、争うことなく、ただ群れになって向かってくる。混乱もそうだけど、思い出したくない光景だ」


 彼がなにを見たのか詳細はレダにはわからない。

 だが、モンスターたちが入り乱れて、アムルスに向かってきている現状は異常だ。


「とにかく数が多かったんだ。くそっ、しばらく夢に出そうだ。もういっそ、冒険者なんかやめて安全な仕事を……」


 青年は髪をかきながら、苛立ったような声を出す。

 さぞ、恐ろしかったのだろう。

 レダはかける声が見つからないが、落ち着くように青年の肩に手を置いた。

 すると、彼はハッとする。


「す、すまない。まだ冷静になれていないみたいだ」

「謝る必要なんてないよ。でも、よくそんな状況で戻って来れたね」

「実際、被害は結構あったんだ。それでも、テックスさんがいたら被害は最小限に」

「――テックス?」


 レダは周囲を見渡した。

 この場にテックスはいない。

 ティーダに報告に行っているのかもしれないと考える。

 しかし、青年の続く言葉に絶句することとなる。


「……テックスさんがしんがりになってくれたから、俺たちは逃げることができた。あのモンスターの数だ……いくらテックスさんでも、くそっ!」

「――なんだって?」


 テックスがこの場にいないのは、無事だと考えていた。

 彼がいつも飄々としながら、難しいことをこなしている。

 だから、今回も怪我こそしているかもしれないが、いつもと変わらず帰ってきていると思っていた。

 レダは、それだけテックスを信頼していたのだ。


「――――テックスは一緒に戻っていないのか?」

「……すまん。テックスさんは」


 レダが、絶望的な顔をしたときだった。



「レダーーーーーーーーーーー!」



 聞き覚えのある声が響いた。

 大切な家族であるナオミ・ダニエルズの声だった。


「ナオミ!」


 彼女は血まみれだ。

 そして、誰かを担いでいた。

 レダはなにも考えずに、彼女のもとへ走った。


「テックスが重症なのだ! 治療をお願いするのだ!」





 〜〜あとがき〜〜


 コミカライズ最新9巻が発売となりました!

 何卒よろしくお願いいたします!

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