54「治療は続く」
「――ふう」
レダは大きく息を吐いた。
重症者の治療は無事に行われた。
現場で死んでしまった者はともかく、冒険者ギルドにたどり着いた冒険者たちの中から死者は出ていなかった。
身体を取り戻した冒険者たちも、激痛と緊張から解放されて、薬師が煎じた増血剤を飲んで、今は眠っている。
「……エンジー」
「はい」
レダは同じ部屋で、呆然と立つエンジーに声をかけた。
彼は衣服を血に濡らしながら、治療をやり遂げた。
人見知りである彼は、泣き言ひとつ言わずに、重症者の治療を成し遂げたのだ。
「君は立派な治癒士だ。ありがとう、助かったよ」
「……レダ先生……ありがとうございます」
エンジーの瞳が潤む。
だが、まだ泣くには早い。
「まだ怪我人はいるよ。みんなを治療するまで、まだ肩の力は抜けない。まだ、できるかな?」
「もちろんです!」
「じゃあ、引き続き、頑張ろう!」
「はい!」
レダは、同じく治療をしてくれていた母を見る。
彼女は手を振った。
「ここは私に任せてね」
「うん。お母さん、お願い!」
「お願いします、フィナ様!」
「はいはーい」
治癒術はじめ、魔術全般がレダよりも優れているダークエルフのフィナ・ディクソンにこの場を任せることができることはよかった。
ただし、彼女も連続した高位治癒を続けたことで、魔力的に疲弊しているのが見られた。
しかし、それはレダたちも同じだ。
今は、この場を乗り切ることだけ考えればいい。
力尽きるのは、その後だ。
レダとエンジーは冒険者ギルドの入り口に戻る。
すでにネクセンをはじめ、アメリア、ポール・ジョーンの診療所の面々がいた。
学校から帰ってきたのだろう、ミナもルナと一緒にこの場にいて、怪我人の世話をしている。
教会からは、聖女ディアンヌと、モリアンもいた。
モリアンはレダを見つけると、少し苦々しい顔をしたが、頷いて治療に戻った。
彼も治癒術を使えるようだ。
最初の出会いこそ良くなかったが、怪我人を助けたいという気持ちは同じのようで安心する。
「エンジー、俺たちも頑張ろう。もう少しだ」
「はい!」
エンジーは返事をすると、近くにいた怪我人に治癒を施していく。
奥の部屋にいた重症者ほどではないが、なかなか怪我がひどい。
いつもなら、重症者として奥の部屋に通されるほどの怪我の冒険者たちもいる。
「――いったい何が起きているんだ?」
冒険者を治療しながら、レダは不安を覚えた。
〜〜あとがき〜〜
コミカライズ最新9巻が発売となりました!
何卒よろしくお願いいたします!
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