44「不安」
この日の午前中は患者が少なかった。
診療所に定期的に顔を見せてくれている住民以外、怪我をする者がいない。
とてもいいことだ。
気を抜いているわけではないが、レダは待合室で住民たちと談笑していた。
「レダちゃんもとっても立派になって、ミナちゃんの自慢のお父さんになったわね」
「そうそう。アムルスに来たばかりのときは、良い人だっていうのはわかっていたけど、少し自信のない感じがしたから、心配していたのよ」
「今は、アムルスにいなくてはならない立派な治癒士様になって……」
「皆さんのおかげです。俺とミナのことを支えてくれましたから」
レダに気さくに声をかけてくれているのは、アムルスに来てからお世話になっている女性たちだ。
中年から初老の女性たちは、ミナのことをとても気にかけてくれた。
衣服から、食事のバランス、気をつけることをたくさん教えてくれた。
ルナが家族に加わってから、彼女のことも親身になって接してくれた。
彼女たちがいたからこそ、レダはここまでやってこられたと言っても過言ではない。
彼女たちも、診療所に顔を出すのは、ミナを「いってらっしゃい」と学校へ見送ることと、ルナの様子を見に来てくれているのだ。
そんな彼女たちの家族は冒険者として活躍している。
レダも何度も怪我の治療をしており、飲み仲間としても親しくさせてもらっている。
レダが助けられたように、彼女たちの家族を助けたい。
そんな思いがあるのだ。
「それにしても、今日は診療所が静かね」
「ははは、怪我人がいないことはいいことですよ」
「……最近、少し心配なのよ」
「なにかありましたか?」
初老の女性がため息をつく。
彼女は夫がまだ現役の冒険者で、息子と娘と仲間たちとパーティーを組んでいる。
レダもよく知っている。
「特定のモンスターの数が少ないらしいの」
「……いいことなんじゃないんですか? 冒険者たちがアムルスを広げるために頑張って駆逐しているんですし」
「そうなのだけど……ついこの間までモンスターが活性化していたのに、急にモンスターの数が減ると、悪いことが起きるっていうじゃない?」
「……確かに、そう言われますけど」
迷信というほどではないが、モンスターの数が突然減ると大きな災厄が起きるという「冒険者あるある」がある。
レダも気になった。
ユーヴィンの街にいる間に、アムルス周辺のモンスターが活性化していると聞いている。
しかし、冒険者の声では、特定のモンスターが減っているようだ。
冒険者たちが間引いたことも理由にあるのだろう。
モンスターたちの中で食物連鎖もあるので、珍しいことではあるが、ないわけではない。
一番考えたくない理由は、強い個体が生まれたか、どこからか流れてきた可能性もある。
――しかし、なぜか不安になる。
レダも冒険者として長い。
底辺であったが、それなりに場数は踏んでいる。
最近では、冒険者としての仕事はしていないが、長年培った感が「よくないことが起きるかもしれない」と囁いているのだ。
(――そんな馬鹿な。なにも確証なんてないのに)
レダは首を横に振って、笑顔を浮かべた。
「大丈夫ですよ。きっとみんなの成果です。万が一、なにかあっても街のみんなで協力しましょう」
レダが励ますと、女性は頷いてくれた。
〜〜あとがき〜〜
4月15日(月)に、コミカライズ8巻が発売となりました!
ぜひお手に取っていただけますと幸いでございます。
何卒よろしくお願いいたします!
近況ノートにてカバーイラストを公開しております!
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