43「いつもの朝」





 早朝。

 妻たちよりも早く起きてしまったレダは、彼女たちを起こさないようにベッドから起き上がると、キッチンでコーヒーを淹れて朝食の準備を始めた。


 昨晩は、楽しい時間だった。

 夜間の怪我人も来ることはなかった。


 レダたちがアムルスを留守にしている間、周辺でモンスターが活性化しているという。

 そのため、夜間の冒険者の活動は最低限に止められている。

 遠征任務がある冒険者や、アムルスに向かう商人の護衛など、日夜問わず街の外に出る以来はさておき、モンスターの討伐、開拓の依頼は日中に行うことを冒険者ギルドは決めていた。


 モンスターにも種類がある。

 人間と変わらないように、日中動き、夜は寝るモンスター。

 対して、夜行性のモンスターや、活動サイクルが決まっていないモンスターもいる。


 モンスターにとっての餌である人間や動物の大半が日中に動くため、モンスターたちも自然と日中に動くことが多いのだ。


 それでも、一定数のモンスターが夜間に行動する。

 夜目が聞くモンスターや、匂いや音に敏感なモンスターが、闇夜に紛れて獲物を襲うことを得意としていることから、あえて活動時間を夜にしているのだ。


 人間にとって、夜は暗く恐ろしいものだ。

 治安が悪い街であっても、灯りがあるだけ野宿よりもマシだ。


 闇の中では、弱いとわかっているモンスターに苦戦することもあるし、死ぬ確率も高くなる。

 仕方がないことだが、冒険者に危険はつきものと割り切って夜間行動は意外と多い。

 成功報酬も高いため、一定の人気があるのだ。


「今日も怪我人が少なくありますように、っと」


 魔導コンロで熱されたフライパンに油を引いて、ウインナーを並べる。

 油の弾ける音と、肉と香草の香りがキッチンに広がる。

 ウインナーに火を通している間に、オレンジを絞ってジュースを作る。

 水に氷を淹れて、レモンのスライスを入れてテーブルに置く。


「よっと」


 ウインナーを皿に移すと、フライパンを紙で拭いて汚れを取る。

 再び油を引いて、バターを流すと、スクランブルエッグを焼き始める。

 味付けはバターと塩胡椒だけ。

 あとでトマトソースをかけて食べるのだ。


「そろそろ、みんなが起きてくるはずだから、パンを焼こうかな」


 トースターにパンを並べ、準備する。

 近所のパン屋さんで、定期購入しているライ麦パンだ。


「パパ、おはよう!」

「ミナ、おはよう」


 パジャマ姿のミナがキッチンに現れ、レダに抱きつく。

 可愛い愛娘を抱きしめ、朝の挨拶をする。

 娘の暖かい体温を感じていると、ルナたちも起きてくる。


「パパったら、早く起きるなら起こしてくれてもいいのにぃ」

「ははは。気持ちよさそうに寝ているから、起こすのも悪いかなって。さ、食事にしようかな?」


 家族が揃ったので、ディクソン家のいつもの食事が始まった。





 ――「災厄」が近くまできていることを、レダは知る由もなかった。






 〜〜あとがき〜〜


 4月15日(月)に、コミカライズ8巻が発売となりました!

 ぜひお手に取っていただけますと幸いでございます。

 何卒よろしくお願いいたします!

 近況ノートにてカバーイラストを公開しております!


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