42「それ」
レダたちが楽しく食事と会話を楽しんでいたころ。
アムルスから離れた魔族の国で、「それ」は猛威を振るっていた。
鋭い牙、剣のような爪、武器が通らない鎧のような毛皮を持った「それ」は、魔族たちを殺し、喰らっていた。
体躯は十メートルを優に超えた巨躯は、動いただけで命が消える。
モンスターも、魔獣も、魔族も、「それ」にとって餌でしかない。
腹が減れば食い殺す。そうでなければ、いたずらに殺し、潰し、踏み躙る。
家族を守ろうとする父親を食いちぎり、子供を守ろうとする母親を踏み潰した。
妹を守ろうと手を広げた兄を軽く蹴飛ばし動けなくすると、目の前で兄の名を呼んだ妹を時間をかけて食い殺した。
絶叫は最高のスパイスだ。
勝てないとわかっていても、拳を握った少年を一口で飲み込むと、逃げ惑っていた村人たちを次々と喰らう。
命乞いする魔族を喰らった。
立ち向かった兵士を食い散らかした。
友人を差し出してでも行き逃れようとした者の手足を喰らい、あえて生かす遊びもした。
――「それ」に知能があった。
人や魔族と変わらない、高い知能があった。
使う必要がないので使わないが、魔術も使える。
人や魔族の言葉を理解し、言葉を話すこともできる。
――だが、「それ」は残忍だった。
思うままに殺し、喰らい、弄ぶ。
――「それ」は人も魔族もモンスターも平等に接した。
残酷に、残忍に、慈悲もない。
――「それ」は自分が強者であると自覚している。
長い時間、魔族を支配していた魔王も自分には敵わなかった。
犠牲を出すことができず、戦いを放棄した弱者だった。
――「それ」は魔族を弄ぶのに飽きて、遠く離れた地に向かった。
その地で、人間を魔族を、モンスターをすべて殺し、満足して帰ってきた。
「それ」の感覚では、少しバカンスに出かけた感覚だ。
だが、やはり食べ慣れた食事が恋しくなった。
良質な魔力は良質な肉となることを理解していた「それ」は、懐かしい地で食事を開始した。
欲望のまま魔族を食い散らかしてた「それ」は、ふ、と気づいた。
離れた場所に、人間たちが増えていることを。
魔族との戦争で減ったはずの人間が増えている。
――「それ」は舌舐めずりをした。
人間は美味い。
魔族も上手いが、人間の味は上品だ。
とくに魔力を持つ特定の人間の味は今でも思い出せるほど、美味だ。
――「それ」は、魔族を弄ぶのをやめて、移動を始めた。
腹が空くように身体を動かしながら、途中でつまみ食いを我慢しながら、人間という「食物」の街に向かった。
〜〜あとがき〜〜
王都編の前に大きなイベントです!
明日4月15日(月)に、コミカライズ8巻が発売となります!
ぜひお手に取っていただけますと幸いでございます。
何卒よろしくお願いいたします!
カバーイラストを近況ノートのアップしておきますので、ぜひご覧ください!
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