41「大きな挑戦」③





「ミナはいい子だな……お父さん、髪がなくなっても元気でいられそうだよ」

「うん!」


 顔を引き攣りらせながらも、元気づけてくれた愛娘に笑顔を向けた。


「そういえば、私の治療をするために頑張ってくれた治療団って……もともと髪の研究をするために集めた精鋭だったのよね」

「……アストリット?」


 アストリットはかつて顔に大きな怪我を負ってしまった。

 そのことから光を失い、外に出ることができなくなった。

 また、自分の目で確認はできずとも、顔に怪我を負ってしまったことは自覚しているため、人が近づくのを極端に嫌がり、暴れることもあった過去を持つ。

 今では、美貌を取り戻しているが、それまでは大変だった。

 レダがいなければ、治癒は不可能であった。

 父親である王が治癒士を集めて、治療をさせていたが、その中に髪の研究をしていた治癒士がいたらしい。


「王家も大概ねぇ」

「そういってやるでない。王族ほど各国の要人と顔を合わせなければならぬ仕事はないのじゃから、身だしなみを気にするのは仕方がないことじゃのう」

「そうですよね」


 ドニーの言葉に、レダがうんうんと頷く。

 王族でも平民でも、髪への悩みは平等だ。


「男なら潔く剃って終えばいいにのではないか?」


 肉を頬張るエルザの言葉に、男性たちが顔を引き攣らせた。


「いや、その、エルザさん。そんな潔くできないからこそ、悩むんです」

「そうか、大変だな」


 レダも潔く剃ってしまえたらどれほど楽かと思う。

 だが、それができる男ばかりではないのだ。


「――ずいぶん楽しそうな話をしているね」

「あらあら、レダ様ったら。髪がなくなっても、レダ様は素敵ですわ」


 食事と会話で盛り上がっていると、領主ティーダと妹でありレダの妻でもあるヴァレリーが現れた。


「ティーダ様」

「そのままでいいよ」


 挨拶をしようとしたレダたちを、ティーダが手で制す。


「楽しい時間に割り込んでしまいすまない。想像以上に話が早く終わってね、ヴァレリーを送り届けようとしたんだが、ここにいると聞いたのでお邪魔してしまった。ご一緒してもいいかな?」

「もちろんです。さあ、どうぞ」


 追加で椅子を用意し、ティーダに座ってもらう。

 ウエイトレスが、ティーダが席につくと同時にワインを運んできた。


「ありがとう」

「いいえ、ごゆっくりお楽しみください!」


 何度も頭を下げてウエイトレスが下がる。


「それで、レダ。面白い話をしていたね。もしかして、髪を復活させることができるのかい?」

「……うわぁ、ティーダ様まで興味津々なんだぁ」


 前のめりになって訪ねてくるティーダに、ルナが引き気味だ。


「ルナ、残念ながら私もひとりの男だ。素敵な妻と可愛い娘たちのために、いつでも良い男でいたいのだよ」

「髪がすべてじゃないと思うんですけどぉ」

「それでも、さ」


 ティーダの切実な声に、レダたち男性陣が力強く頷いた。


「……実を言うと、母方の家系が、その、髪が抜けやすくてね。父方はふさふさなのだが……備えは必要だと思うのだ!」

「よいお考えですのう、領主様。ならば、アムルスにて髪の復活の研究をしましょう!」

「素晴らしいお考えだ、ドニー殿! 若き治癒士たちもきてくれたことだし、今後は学者も招いて本格的に研究を行おう!」

「……うわぁ、男って」


 盛り上がる男たちに、ルナはちょっと引き気味だった。






 〜〜あとがき〜〜

 とりあえず、髪のお話はここまで。

 また触れる機会はある、かもです。



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