36「ドニー・ウェインという老人」①







「誰だ、あなたは? 我々が教会の人間と知って」

「おやめください、モリアン様! この方は、ドニー・ウェイン様です!」

「何?」


 お世辞にも良いとはいえない口調と威圧を込めたモリアンに、ディアンヌが叫ぶように止めた。

 レダの人柄の良さを知っているので、内心では申し訳ないと思いながら、言うことを言えばとりあえずモリアンが引くと考えていた。

 あとで土下座でもなんでもする覚悟を決めていたディアンヌだったが、さすがにドニー・ウェインはまずい。


「教会の連中もマシになったかと思えば、末端はまだこのような」

「私を末端と言うのか!」

「アムルスの価値がわからん教会連中にとって、ここに飛ばされてきたお主らは左遷組みであろう? 大方、レダ殿を取り込んで王都に戻ろうと考えたのだろうが……お願い事をするのであれば、もう少し言い方があるだろうて」

「貴様! モリアン様を馬鹿にするか!」

「馬鹿にしているのだよ」

「――このっ!」


 レイニーが拳を握った。

 が、彼女は何もできず、その場に崩れ落ちた。


「せ、聖女ディアンヌ様?」

「ほう。嬢ちゃんもなかなか」


 レイニーを背後から殴打し、気絶させたのはディアンヌだった。

 もともと恩人であり、尊敬するレダへの態度に我慢の限界が来ていたが、ドニーに対する無礼を重ねたので、ディアンヌは強硬手段に出た。


「……聖女ともあろう者が」

「いい加減にしてください! あなたの言葉ひとつでどれだけ教会の立場が悪くなるのかわかっていないのですか!?」

「なにを」

「まだドニー様のお名前を思い出せないのですか!」


 ディアンヌの喝に、たじろいだモリアンは「――はっ」と何かに気づいた顔をした。


「ま、まさか、回復ギルドの重鎮――ドニー・ウェイン氏」

「よかったよかった、わしは結構名が売れていると自負しておったのだが、自惚れかと恥ずかしくなるとこだった。それで、わしがドニー・ウェインとわかって、まだその態度を続けるかな? 続けると言うのなら、わしの弟子を教会から引き上げさせ、今後教会側に協力しない、育成にも手を貸さないと上層部に言ってやってもいいのだが? もちろん、お前さんの名を出した上でのう」

「おやめください!」

「聞こえんのう?」

「お願いです。どうか、上には。お願いします」

「聞こえんのう。お願いばかりで、謝罪の声がひとつも聞こえんのう?」

「申し訳ございませんでした! ですから、どうか!」

「……お前さんは、それが謝罪する態度なのかのう?」


 ドニーの威圧する声に、モリアンは自分のすべきことを理解した。

 モリアンはその場に膝をつき、床に額を押し当てる。


「――申し訳ございませんでした」


 好々爺と思っていたドニーの他の一面を垣間見たレダたちは、驚きで硬直していた。







 〜〜あとがき〜〜

 次回は改めてドニーさんついてです。


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