32「レダのスタイル」





 診療所は問題なく動いた。

 ネクセンはもちろんのこと、ドニー治癒士もすでにアムルスの人々から周知されており、その気さくな人柄からすでに溶け込んでいる。

 熟練の治癒士の腕もすばらしく、必要最低限の魔力で的確に治療していく。

 小さな怪我などは、受付を済ませた直後にドニーによって治されていくのだ。

 見事、と言うしかない。


 レダとネクセンのすることは変わらず、怪我人の治療をしていく。

 怪我が大きく動かせないのであれば、レダが走って現場に向かう。

 アムルスには冒険者が多いので、怪我人も毎日山のように出るのだ。


 レダが診療所の外にいても、ネクセンがいる。今はドニーもいる。母フィナも力になってくれる。

 患者にとって良い環境ができていると思う。


 ただ、冒険者の中には、即死してしまう者もいる。

 レダたちが駆けつけるよりも早く絶命してしまう者もいる。


 命は無限ではないゆえに、大事にしなければならない。


 レダ・ディクソンと仲間たちはひとりでも多くの命を救うために、治癒を行うのだ。



「じゃあ、午後は患者さんの家を回ろうか」


 昼食と小休憩を終えたレダは、エンジーとポール・ジョンを連れて患者の家を回っていた。

 アメリアは、診療所でネクセンとドニーの側で治療に加わっている。


 すでにアムルスでは、診療所に新たな治癒士が来ることを住民たちは知っており、事前にティーダとレダが面接したことから、諸手を挙げて歓迎されていた。

 今も、街を歩いていると住民たちに声をかけられ、エンジーがぎこちない様子で、ポールがしっかり挨拶をしていく。

 彼らは、治癒士であるとかないとか関係なく、住民と良い関係を築こうと前向きだ。

 エンジーは人見知りで気が弱いながらも、自分が変わるきっかけを自ら掴もうと必死だった。

 治癒士としては若くとも、人としては年上のポールがサポートしてくれるおかげで、エンジーのアムルスでの第一歩は悪くない。

 本人もその自覚があるのか、やる気を見せている。


「レダ殿」

「ポールさん、どうしましたか?」

「いえ、患者の家を回るとはどのようなことでしょうか? 身動くができない患者がいらっしゃるということですかな?」


 歩き移動するレダに、ポールが尋ねた。

 彼の隣では、エンジーも気になっているようだ。


「動けない重病人はいないから安心していいよ。患者さんって言い方が悪かったね。ご老人の家を回るんだよ」

「……ご老人の、ですか?」

「うん。治癒魔法は怪我を治すことや、痛みを取り除けることはできるけど、老いによる身体の不調はとることができないんだ」


 治癒士は神ではなく、治癒魔法も絶対ではない。


「痛みがあって動きづらい、診療所まで来られない、そんな人たちの少しでも癒しになればと思って」

「なんと」


 患者が来るのではなく、治癒士から伺うレダのスタイルに、ポールとエンジーは心底驚いた顔をした。


「家の中で何かあっても嫌だしね。それに、一度見た患者さんが自分の知らないところで……って思うとゾッとするんだ」

「素晴らしいお考えです。このポール・ジョーン、レダ・ディクソン殿にどこまでもついて行きますぞ!」

「ぼ、僕もついて行きます!」

「ありがとう、ポールさんとエンジーも顔を覚えてもらって、手分けして伺えるようになれば助かるよ」






 〜〜あとがき〜〜

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