3「王家の魔術」③
「アストリット、よかった。ここにいたんだね」
「あら、レダ。どうしたの?」
屋敷の水場で、衣類の洗濯をしていた。
ユーヴィンには、孤児もたくさんいる。
そんな孤児を集めて、今は屋敷の一角を借りて面倒を見ているのだ。
孤児の生活を率先して見ているのが、アストリットとヴァレリーだ。
もともとヴァレリーは、アムルスでも孤児院に関わっていることもあるが、アストリットも積極的に孤児のために動いてくれている。
王女でありながら、冷たい水で子供たちの衣服を洗う姿から間違いなく母性を感じた。
「えっと、国王陛下から王家に伝わる魔導書の写しが届いたんだ」
「……お父様から?」
「そうなんだよ。ティーダ様が言うには、王家の魔術を授けてくれるつもりじゃないかって言うんだけど」
「なるほど。お父様も考えたわね」
「アストリット?」
特に驚く様子もなく、むしろ納得するように頷く彼女に、レダは口を傾げる。
「あら、ごめんなさい。説明するわね」
アストリットは周囲を見渡し、他に人がいないことを確認すると、言葉を続けた。
「レダが持っている箱に、魔導書の写しが入っているのね?」
「そうみたい」
「私は詳細はわからないけれど、その箱を開けられるのは王族の血を引く者だけよ」
「……そんなことが可能なんだ?」
「どうやってそんな箱を作ることができるのか私にはわからないけど、王家の血に反応して開くは。逆に言えば、どんなことをしても他の手段では開けられないの。……ナオミなら勇者の力で強引に開けることはできるかもしれないけど、おすすめはしないわ」
きっとナオミならできてしまう予感がする。
レダの脳裏には「おりゃー、なのだ!」と掛け声に反して、割と余裕に箱を中身ごと聖剣で両断するナオミの姿が容易に浮かんだ。
「でも、お父様がこんなに早く動くなんて思わなかったわ」
「そのことなんだけど、アストリットはやっぱりなにか心当たりがあるの?」
「ええ。一応腐っても、私も王女だもの」
顔に大きな怪我をして盲目になってしまったアストリットは、長年名ばかりの王女であった。
しかし、彼女の言う通り、王女であることは変わらない。
王が何を考えているのか、察することはできるようだ。
「ここだけの話だけどね……王家の抱える魔術師って、どんどん質が下がっているの」
「……王家お抱えが? そんなことあるの?」
「魔術師は貴族で奪い合いでしょう? 治癒士なんて、もっと取り合っているじゃない。王家だって同じよ。……私の治療のために、お父様がどれだけ治癒士をかき集めてくれたか……それでも、私は治らなかったけれど」
「アストリット」
「暗い顔しないで。結果的に、レダに治してもらって、お嫁さんになれたのだから、辛い思いでも今は過去のことよ」
強い女性だ、とレダはアストリットを尊敬した。
「ティーダあたりから聞いたかもしれないけど、王家に伝わる魔術を使うことのできる魔術師は、本当に限られているわ。王家の人間でも使えない……いえ、魔術師の才能が無い者のほうが多いもの、論外だわ。そんな時に、治癒士として魔術師として規格外のレダが現れたの。王家にとって、いいえ、貴族からだって喉から手が出るほど欲しい存在よ」
「えっと?」
「私と結婚しただけでは、抱え込んだという絶対的な理由にならないわ。だからこそ、王家の魔術を渡して、本格的に王家に抱き抱えようとしているのだと思うわ」
アストリットの推測に、やっぱり大変なことになったとレダは改めて思うのだった。
〜〜あとがき〜〜
次回、ようやく王家の魔術がはっきりします。
コミック最新7巻が13日に発売いたしました!
ぜひお読みいただけると嬉しいです! 何卒よろしくお願いいたします!
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