4「王家の魔術」④
「……抱え込むって言われても」
辺境のアムルスの診療所で治癒士をしているレダにとってパッとしない話だ。
「でもね、レダがいつか王都で診療所を開かないか……なんてことを十年後、二十年後に言われたら、今はその気がなくてもわからないでしょう?」
「正直なことを言っていいのなら、断れるものなら断りたいかな」
「ふふふ。そうね。でも、アムルスに治癒士がちゃんといて、栄転だからってみんなが送り出してくれるのなら、選択肢がないわけではないのでしょう?」
「……ゼロとは言わない、かな」
十年後、二十年後に自分がどうなっているのかまでは想像できない。
十年後には、レダは四十だし、二十年後には五十だ。
野心が生まれている可能性もゼロとは言わない。
アムルスだって今よりも大きな町になっているだろう。
ティーダの子供だって大きくなっているだろうし、もしかしたら婿を取ることや嫁に行くなどして、ローデンヴァルト辺境伯家を取り巻く環境も変わっている可能性だってある。
とても考えたくないが、愛娘ミナが嫁に言っている可能性だって大有りなのだ。
「悲しくなってきた」
「なぜかしら!?」
「ううっ、十年後……ミナがお嫁に行く姿を想像しちゃって」
「まさかそっち方面に想像を羽ばたかせるとは思わなかったわ」
アストリットは苦笑する。
ミナの将来の夫が大変だ。
「色々なことを言ったけど、あまり気にする必要はないと思うわよ」
「……なぜ?」
「今まで王子王女の結婚なんて何回もあったもの。いい人材には唾を付けておきましょうってことよ。それに、ここだけの話……王家の魔術を王家の結婚相手に伝えたことはもちろん珍しくないわ。ただ使える人間がいなかっただけよ」
「やっぱり使えないんですね」
「そりゃそうよ。昔と現在じゃ、魔法使いの質が違うんですもの。何よりも、王家の魔術が使えるようになったら、使えた人間は絶対に自慢するだろうし、王家だって使えなかった魔術の復活を喜ぶわ。今まで、それがなかったといことは」
「使えなかったってことかな」
「そういうこと。だから、お父様も、レダに期待はしているのだろうけど、絶対的に王家の魔術が使えるとは思っていないわよ」
アストリットの言葉にレダは気が楽になった。
何やら重荷を背負ったような気がしていたのだが、肩が軽くなったと思う。
「じゃあ、さっそく見てみましょう」
「そうなんだけど、この箱ってどうやって開けるのかな?」
「こうするのよ」
アストリットが親指を噛み切った。
ゆっくり血が滴り、箱の上に落ちる。
「……いきなりはびっくりしちゃうよ」
「うふふ、ごめんなさい。でも、早いじゃない」
彼女の指にヒールをかけ、血が止まり、傷が消えたことを確認すると同時に、王家の魔術が記された写本が入った箱が静かに蓋を開けた。
「どれどれ。お父様はレダにどんな魔術を期待しているのかしら。レダなら治癒術なんでしょうけ、ど……え?」
「アストリット?」
彼女が写本を持ち、言葉を失った。
レダは何を見たのかと、恐る恐る覗きも身、同じく言葉を失った。
「――死者蘇生?」
〜〜あとがき〜〜
王家の魔術は「死者蘇生」でした。他にもあります。
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