63「三人目は個性的」②





「……レダ、一応言っておくが彼は人間だ」

「……そこは疑っていませんけど」

「……私と交流があるとある貴族の三男だ」

「……それはなんというか」

「……以前は気弱だと聞いていたのだが、話と真逆と言うか、いろいろ凄いことになっているな」

「……ですね」


 こっそり小さな声で話をするのは、元堕天使のエンジェルくんに聞かせる内容ではなかったからだ。


(それにしても、冒険者にもこんな目立つ子はいなかったな)


 黒尽くめの服には、無駄に革ベルトが付けられていて、はっきり言って邪魔そうだった。

 腕まくりしているのはいいのだが、腕には包帯が巻かれている。治癒士ならば治癒をしろ、とレダが思ったのは言うまでもない。

 続いて、左目には眼帯をして、右目には化粧が施されている。

 二十歳ほどの青年が、なかなか印象深い格好をしているものだと思う。


「ところで、えっとエンジェルくん」

「ティーダ・アムルス・ローデンヴァルト様、どうか俺のことはエンジーと呼んでほしい。親しいものはみんなそう言う」

「う、うん。ではエンジー。堕天使などは置いておくとして」

「……え?」


(掘り下げてほしかったのかな? とても悲しい顔をしているなぁ)


「置いておくとして!」

「あ、はい」

「治癒士を志す理由を教えてもらおうかな。贖罪とはそういうのは抜きにしよう」

「……抜き?」

「抜きだ」

「あ、あの、五分だけ時間をもらっていいですか。お願いします。五分でいいから、俺の魂を洗わせてください」


 ティーダは困ったようにレダと顔を見合わせた。

 よくわからないが必死に願うのなら良しとするべきではないかと思う。

 それに、レダたちも小休憩をすべきだった。


「では、五分あげよう。次、顔を出した時に、話がちゃんとできないのなら君を受け入れることはしない。いいね」

「……承知しました」


 お辞儀をして出ていくエンジーを見送ると、サムとティーダは肩をすくめた。


「悪い子ではないと聞いていたのだが、少し反抗期というか、なんだろうか。気恥ずかしいというか、どこか懐かしささえ覚えるな」

「悪い子ではなさそうですけどね。でも、あの様子だと診療所で悪目立ちしそうですね」

「そうだな。悩ましい」


 しばらくすると、ノックが響いた。


「入って構わないよ」

「失礼します」


 入ってきた青年に、レダとティーダは「誰?」と首を傾げた。

 青年はふたりの疑問に気づかず、深々と頭下げて挨拶をした。


「あ、改めまして、こんばんは。僕はエンジーです」

「え?」

「は?」


 エンジーを名乗った青年は、長髪こそそのままだが、服装もスラックスとシャツに変わり、革ベルトと包帯、眼帯を外した、どこか気弱そうな印象があった。

 まさか先ほどまで部屋にいた個性的なエンジーと同一人物であると理解するまで、レダとティーダはしばらく時間を要した。


「お、お恥ずかしい話ですが、ぼ、僕は気が弱いため、キャラを作ってからじゃないと、外に出ることも、人と接することも、ちゃ、ちゃちゃんとできなくて。でも、憧れの、レダ様の弟子になりたくて、そそそ、ありの、ままの僕じゃないとダメだって、思って、すみません」


 ぺこぺこ頭を下げながら説明してくれたエンジーが、「自己暗示」をかけていたことをレダとティーダは知ったのだった。






 〜〜あとがき〜〜

 エンジーくん。反応からこのままじゃやばいっと思いました。


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