64「三人目は個性的」③





「……名前はエンジーでよいのかな?」

「は、ははい、エンジーと申します。じ、じじ、実は、堕天使でも天使でもありません。騙してしまい申し訳ございませんでしたっ」

「いや、騙されてはいないのだが」

「え!?」


 心底びっくりした様子のエンジーに、レダとティーダが苦笑する。

 まさか本気でエンジーを天使か堕天使かと思い込んでいると思われているとは夢にも思っていなかった。


 とはいえ、おとぎ話に出てくるエルフや、魔王、ダークエル、果てには竜などいる世界のだから、天使がいても驚きはしない。


「個人的には、エンジーがなぜあのような言動を取っていたのか理解しかねる。君の今後を決める場でもあるのだから、事情を話していただきたいな」

「そ、それは」

「もし、ふざけていたというのなら、回復ギルドの推薦があろうと、君が優れた治癒士であろうと、受け入れることはしない」


 ティーダのはっきりとした物言い、エンジーの泣きそうな顔をした。


「えっと、エンジーって呼ばせてもらうね。緊張しているのはわかるし、冒険者や街の人の治療を手伝ってもらったことにはこちらも感謝しているんだ」

「は、はい」

「できれば、天使とか堕天使とか、いう理由を少し話してもらいたいかなって。いや、話せないなら無理に掘り下げることはしないよ。でも、こういう場だから、誤解がないようにちゃんと話しておいた方がいいと思うんだよ」

「そう、ですよね。はい」


 助け舟を出したレダに、エンジーは何度も繰り返し深呼吸をすると、真剣な顔をして言った。


「あの、僕……人見知りなんです」

「おや」

「おっと」

「それに、あがり症なんです」

「……そうか」

「なるほど」

「だから、自分に暗示をかけて元堕天使の過去を持つエンジェルとして設定を作って、別人になったように振る舞うことで、それらを人に感じさせないようにしていたんです。それが、その、ご迷惑をおかけしたのでしたら、申し訳ございません!」


 レダとティーダが顔を見合わせた。

 また少し怒り気味だったティーダは毒気を抜かれたように、肩の力を抜く。


「そういうことだったか。怒るような真似をしてこちらこそすまない」

「い、いいいいい、いえ、そんな」

「だが、もう少し設定がなんとかならなかったんだろうか? 堕天使でエンジェル? その辺りがよくわからない」

「て、ティーダ様、そこにダメ出しをしなくてもいいような気が」

「だが、人見知りであがり症ならば、今後も続けていくのだろう? ならば、もっとわかりやすく、親しみのある設定にした方がいいと思うのだが?」

「一理ありますが、そうじゃなくてですね」

「ふざけていたのであれば、許さなかったが、自分なりに頑張った結果があれならば、私は悪く思うことはしない。だが、設定が微妙なので良い案を考えてあげたいのだよ」

「それはいいことですけど、ちょっと待ってくださいね。えっと、エンジー」

「は、はい」


 急に協力的になったティーダに落ち着いてもらい、レダはエンジーに話しかける。


「えっと、今は話がちゃんとできていると思うんだけど」

「はい。一番の緊張はキャラ作りで乗り越えましたから、今は倒れる覚悟で頑張っています」

「倒れちゃうんだ」

「はい。きっと後で倒れます」

「君的には、キャラ設定でなんとかしたいのかな? それとも、ありのままの自分で治癒士としてやっていきたいのかな?」

「で、でで、できることなら、その、ありのままで治癒士に、なり、たいです。でも! 患者さんを前にすると緊張しちゃうんです! うまく治癒がつかえないんです!」


 エンジーの訴えに、レダは「ふむ」と何かを決めたように頷いた。






 〜〜あとがき〜〜

 エンジーくんの理由でした。


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