45「ドラゴンハンバーグ」②
「よう、レダ。お疲れさん」
「テックスさん。そっちもお疲れ様です」
「おうよ」
ドラゴンステーキを食べ終えて、ベンチに座ってのんびりしていたレダに声をかけたのはテックスだった。
彼は、冒険者ギルドのマスターであるベニーの監視をしていたのだが、どうやら交代したようだ。
「ベニーはどうしていますか?」
「奴はまだ諦めてねえみたいでな。ったく、今さら誰があんなクズの甘言に乗るかよ」
「足掻くのはしかたがないですよね。貴族の領地で好き勝手やったんですから。家族がいなければいいんですが」
「奴には家族はいねえよ。両親は流行病で死んだって聞いたことがある。恋人もいたようだが、長続きしないっていうか、利用しては捨てるような関係ばかりだったな。何人があいつに弄ばれたのやら」
「……不愉快な人ですね」
「まったくだ」
お人好しなレダでも、ベニーの悪行は許せない。
冒険者業は自己責任が多く、レダ自身も苦労してきた経験がある。
それでも、冒険者を利用し、使えなくなったら人身売買するなど人がする所業ではない。
使い潰された冒険者たちだって、死人同然の生活だった。彼らの生活を目の当たりにし、中には、恩人であるローゼスもいたのだ。レダの怒りは大きかった。
「やってられねえよなぁ」
テックスはスキットルを取り出すと、口をつけた。
酒の香りがし、レダが困った顔をした。
「テックスさん、まだ昼間ですよ」
「散々、ベニーのくっだらねえ言い訳を聞き続けたんだ。飲まなきゃやってられねえっての」
「飲みすぎちゃ駄目ですよ」
「……お前さんは俺の奥さんかよ。わーってるよ、俺ももうじじぃだからな。無茶はしねえって」
そう言いながら、喉を鳴らしてテックスは酒を飲み続けた。
よほどベニーの見張りはストレスだったのだろう。
治癒士としては止めたいが、ひとりの人間として気持ちはわかるのでやめておいた。
「そういや、マールドの旦那の婚約者の……エミリアの嬢ちゃんが、人身売買に関わっていた商人をちゃんとリストにしてくれていたんだが」
「なにかありましたか?」
「アムルスに出入りしている商人というか、ティーダ様の覚えのいい商人もいてな」
「……なんてことだ」
「まったくだ。ティーダ様はお怒りだ。あ、心配するな。レダと仲がいい商人たちは関係ねえよ。ったく、どいつもこいつも金に目をくらませやがって」
「売られた冒険者たちは戻って来られそうですか?」
「基本的に、国内では人身売買は禁止だからな。大陸法で禁止されてはいるが、国によっては暗黙で良しとしている場合もある。ま、この国の場合は縛首で、私財没収だからな。良くても家族揃って犯罪奴隷だな」
「…………」
「気にしなさんな。悪さをしてはぶりのいい商人ってのは、家族も悪さをしていることは知ってるもんよ。良い暮らしを捨てられないから、悪事を見て見ぬふりをする。家族が善なら、とっくに捕まってるさ」
「そう、ですね」
商人たちは自業自得だ。
だが、もし、家族がなにも知らなければ、やりきれない。
他人でも、お人好しのレダにとってはあまり良い話ではなかった。
「さてと、そろそろ見張に戻るかねぇ。よかったら、ベニーを治療してやってくれや」
「治療? なにかあったんですか?」
「現在進行形で、見張りの冒険者にぶっ飛ばされているだろうからな」
「テックスさん……それって」
「殺さなきゃいいだろ。それに、冒険者が暴発して、馬鹿なことをするよりもいいさ。心配するなって、ちゃんと俺の部下を追加で見張りにしているから、万が一はねえよ」
同じ冒険者でもレダはテックスのような荒っぽさがない。
こういうところで、自分は冒険者に向いていなかったんだなぁ、と思ってしまうのだった。
テックスの予想通り、ベニーは冒険者に痛めつけられていた。
レダが治療すると、口汚く罵声をはじめ、再び暴行を受ける。
さすがのレダも、まるで反省していないベニーに呆れるのだった。
〜〜あとがき〜〜
最新コミック6巻が発売されております!
ぜひお読み頂けますと幸いです!
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