44「ドラゴンハンバーグ」①





「うわぁ……本当にドラゴンを食べてるんですけど。精がつくのはわかるけどぉ、これだけおっきいドラゴンなら、尻尾だけだって大金になるでしょうに」


 ルナは目の前に広がる光景に、ため息をついていた。

 ドラゴンなど早々に食べれる機会はなく、王族や貴族でも、滅多なことで口にできない。

 ドラゴンに血肉には、寿命を伸ばす、若返りの効果、果てには不老不死などという噂まであり、市場にドラゴンが現れると目の色を変えて競り落とそうとする人間がいることは知っている。


 そのドラゴンが、しかも、魔王のダンジョンでボスをやっていたらしいドラゴンが、尻尾とはいえユーヴィンの街の人たちに振る舞われている光景は――異様の一言だ。

 ドラゴンの肉を求める者からすると、血涙間違いないだろう。


「うーまーいーぞー!」

「ティーダ様はなんかキャラが変わっちゃってるし」


 大ぶりにカットしたドラゴン肉を、シンプルに塩胡椒だけで焼いたドラゴンステーキを食べたティーダが、口から魔法を放ちそうなほど絶叫していた。

 他にも、ボンボが筋肉をびくんびくんさせながら、丁寧に形を整えたドラゴンハンバーグを、レダが大きな鉄板で焼いていく。

 その合間に、ステーキ用のタレをいくつか作り、他の鉄板ではステーキを焼いている。ステーキも、塩胡椒から、バターで炒めるものまで手際がいい。


「意外とパパも多芸よねぇ」


 レダのアイテムボックスから大きな鉄板が出てきたときは、さすがのルナも唖然とした。

 夫は「冒険者だから。ははは」なんて笑っていたが、どこの冒険者がユーヴィンの住民の分を焼けるほど何枚もの鉄板を持っているのか、と言おうか言うまいか悩んだ。

 特定の冒険者が集まるクランでさえ、こうも鉄板は持っていないだろう。

 あと、貴重すぎるドラゴンに肉に、なんの躊躇いもなく玉ねぎを混ぜれるのがすごい。ハンバーグのするために必要な肯定ではあるのだが、せっかくのドラゴン肉をそのまま食べないと言う選択肢があるのに驚いた。


「ルナの分を持ってきたのだ! ハンバーグなのだ! レダと一緒に焼いたので食べてほしいのだー!」

「……ありがと」

「ん!」


 にっこり笑顔のナオミが持ってきてくれたドラゴンハンバーグを受け取り、フォークで切り分けると口に運ぶ。

 トマトベースの甘いタレが先に舌を刺激するが、その後に、ドラゴン肉の濃厚な味と旨味が襲いかかってくる。

 咀嚼するたびに、肉汁と旨味が溢れ、飲み込みたくないとさえ思ってしまう。

 だが、いつまでも噛んでいるわけにはいかず、飲み込む。喉を通る瞬間でさえ、今まで食べてきた肉と違うのがわかった。


「――美味しいわ。ありがと」

「うむ! たくさん食べて、立派になるのだぞ!」


 ナオミが満足そうに頷くと、ルナの露出した腹部を撫でる。


「ちょっと! 私のお腹は立派になんてならないわよ! このちょうどいいくびれ具合が崩れてたまるもんですか!」

「――やれやれ、なのだ」


 ルナが眉を吊り上げるも、なぜかナオミは「自分はわかっています」みたいな顔をして、肩をすくめる。

 なんとなくかちんと来たルナは、ナオミの皿からドラゴンハンバーグを奪おうとフォークを伸ばした。が、ナオミのフォークによって阻まれる。

 お行儀が悪いが、かちんかちん、と音を立ててバトルを繰り広げるルナとナオミは、呆れた顔のアストリットが止めるまで続いた。





〜〜あとがき〜〜

最新コミック6巻が発売されております!

ぜひお読み頂けますと幸いです!

よろしくお願い致します!

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