42「テックスとベニー」
「テックス! いるんだろ、テックス!」
「うるせーな、なんだよ?」
伯爵家の一室で軟禁状態にある冒険者ギルドの長ベニーは、顔見知りの冒険者テックスの名を何度も呼んだ。
ギルド長であるベニーだが、さほど強くない。
テックスだけの見張りで事足りるのだ。
むしろ、他の冒険者を見張りにしたら、ベニーを殺してしまう可能性があるので、自制心が効くテックスが貧乏くじを引いていた。できることなら、彼も未知なるダンジョンに行きたかった。
「あのよう、お前さんの声なんて聞いたら、身体が治って腹一杯になった冒険者たちが殺しにくるぜ。もっと、息を殺して申し訳なくしてろって」
「テックス、なあ、テックス。頼みがある」
「聞くわけねえだろ」
「頼む、テックス! 俺たち知らない仲じゃないだろう?」
「王都で散々尻拭いさせられた仲だよなぁ。言っておくが、発言には気をつけろよ。俺だって、お前さんみたいなクズは殺しちまいたいんだ。ティーダ様のために、我慢しているってことを忘れんなよ」
扉越しに鬱陶しいほど必死で話しかけてくるベニーに、テックスは辟易する。
この状況で、「頼みがある」なんて言われたら、逃がしてくれや、便宜を図ってくれ、などを頼んでくること間違い無い。
テックスはベニーと知り合いではあるが、顔見知りでしかない。
食事も酒も一緒に交わしたことはないし、恩もない。
むしろ、尻拭いをさせられあ過去があり、その本性を早くに知っていたので嫌いである。
ゆえに、テックスがベニーの頼みを聞いてやる義理などないし、そもそも貴族に逆らい、冒険者を食い物にしてきた犯罪者を庇って、同じ犯罪者になるのなんてごめんだった。
「頼む、なあ、頼むよ、テックス。俺を逃がしてくれ」
「……お前さんは昔っから、すぐに逃げる癖があるよな。散々やりたい放題してきたんだ、一度くらい潔く覚悟を決めたらどうだってんだ?」
「冒険者なんて食うか食われるかだろう! 俺は食う側だった! それだけのことじゃないか! なあ、頼むよ。まだ商人のツテだって死んでないし、王都の貴族にも知り合いがいるんだ」
「興味ないねぇ。俺は親友が王女様といい関係でな。お前さん程度を相手にする木っ端貴族なんぞどうでもいいのよ」
もちろん、テックスが王女アストリットの名を使い勝手なことをするつもりはないが、ベニーのような男には、お前よりもよほどいいコネを持っている、と言ったほうが効果があるのだ。
実際、ベニーはテックスを引き込むには、もう他に手札がないようで、黙ってしまった。
「おい、聞こえるか?」
「なに?」
「ティーダ様が帰ってきたぜ。さてさて、未知なるダンジョンはどんなだったんだろうな? あー、残念だ。お前さんはダンジョンに関して何も教えてもらえず、王都へ連行だ。貴族から領地を奪おうとしたんだ、縛首だろうなぁ。よかったな、家族がいなくて」
「テックス! 頼む! 俺を助けてくれ! なんでもする! なんでもするから!」
「ほう、なんでもしてくれるのか?」
「ああ、もちろんだとも!」
「じゃあ、てめえの不始末で死んじまった冒険者たちを生き返らせてくれよ。この街だけの話じゃねえぜ。王都時代、俺の面倒見ていた駆け出しも、てめえのせいで死んだよな。気のいい奴らで、俺みたいなおっさんを兄貴のようにしたてくれたんだ。そいつらをさ、蘇らせてくれよ。そうしたら、ティーダ様に嘆願してやる」
「…………」
「できねえなら、黙ってろ。次、声をかけたら、後悔するほど痛めつけるからな」
ベニーは自殺防止の魔道具を嵌められているので、万が一ということはない。
むしろ、冒険者がベニーに手を出さなければ、王都までティーダが責任を持って送り届けてくれるだろう。その後の裁きで、どのような結末になるのかまだ不明だが、よくて死ぬまで強制労働で、悪ければ縛り首だ。
「ま、せいぜいお前さんのしたことを後悔しながら、怯えているといいさ」
〜〜あとがき〜〜
最新コミック6巻が発売されております!
ぜひお読み頂けますと幸いです!
よろしくお願い致します!
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