40「その頃アムルスでは」②
ドニー・ウィンは、回復ギルド立ち上げの十人であり、名の知れた治癒士でもある。
かつて、治癒士は決して立場がいいわけではなく、「回復時しか役に立たない」とまで言われていたことがある。
そんな治癒士の地位向上を目指し、回復ギルドを立ち上げ、冒険者ギルドや国と交渉を重ねて地位を獲得した。
治癒士はあくまでも回復ギルドの扱いであり、各ギルドに出向する形を取ったのだ。
中にはレダのように、魔法を全般使えるので回復ギルドではなく冒険者ギルドに所属する者は少なくない。だが、自分の価値にわかると、回復ギルドに移籍することがほとんどだった。
「久しいな、ネクセン。結婚したというのに、わしに声をかけず。まったく師匠思いの弟子で涙が出てくるのう」
「……師匠。もうしわけございません」
「冗談じゃ。気にするでない」
患者のいなくなった診療所で、師匠と弟子が向き合った。
「おそらく、まだ患者は来るだろうから手短に言おう。結婚おめでとう、ネクセンよ。弟子の中で一番頭が硬く、柔軟性のないお前が診療所で患者の治療か」
「はい」
「成長したな。師匠として嬉しく思うぞ」
「――え?」
ネクセンはまさか褒められるとは思っていなかったので、困惑する。ネクセンの知る、ドニー・ウィンは、金に汚く、治療費を支払えない者には身体で払わせるという、よくいる治癒士のひとりだったはずだ。
現に、ネクセンはドニーが家族の怪我の治療費を払えない少女が寝室に呼ばれるところを見たことがある。
「治癒士はかつて誇り高い職業だったが、今では増長し、神様に気取りじゃ」
「……失礼ながら、師匠も、同じだったはずです」
「そうだな。わしも同じじゃよ。だが、わしを追い出そうとした人間がいたか?」
「え?」
「自分で言うのはあれだが、少し誤解をされているようなので言っておこう」
近くの椅子に座るとドニーは話し始める。
「高額な支払いを要求したことはあるが、それは回復ギルドへのポーズであり、金は返していた。寝所に呼んだ者もいたが、方のマッサージー程度だよ。も、もちろん、まだ枯れてはいないので合意があれば、その致したが、無理矢理などしたことはない」
「な、なぜ」
「お前は気づいておらんが、弟子の中に見張りがいたのだよ」
「見張り? なぜですか? 師匠は回復ギルドの重鎮のはず!」
「だからこそ、だ。創設者のわしらは一度は調子にのった。それは認めよう。だが、心を入れ替えた者もいる。しかし、回復ギルドの長をはじめ、栄光を捨てられなかった者たちがのさばった結果がこれじゃ。今では、かつての友を監視しているのじゃよ」
「そんな馬鹿な」
「だが、最近、回復ギルドに革命が起きた。古い世代が淘汰され、良い風が吹いた。そこで、わしもありのまま生きられるようになったのじゃ。その記念、と言うわけではないが、噂のレダ・ディクソンに会いたくてのう。よければ、紹介してくれぬか?」
「その、レダは、今はいません」
「なに?」
「ユーヴィンの街を救うために、診療所を私に任せて向こうで頑張っています」
「なるほどなるほど、噂は本当だったのか」
ネクセンの話を聞き、ドニーは嬉しそうに頬を緩めた。
「では、診療所を手伝いながら、レダ・ディクソンを待たせてもらおう。なに、悪いようにはせん」
「はぁ」
ネクセンは、師匠の行動に若干の戸惑いは覚えたが、ドニーの腕をよく知っていたので、アムルスの人のためになれば、と受け入れる。
ただし、かつての自分のような行動を取れば、師匠だろうと叩き出そうと内心決めていた。
==あとがき==
最新コミック6巻が発売されております!
ぜひお読み頂けますと幸いです!
よろしくお願い致します!
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