39「その頃アムルスでは」①
――一方、レダのいないアムルスでは。
「ああっ、もう! 忙しすぎて目が回る!」
診療所で患者たちを治療しているネクセンがいた。
今までは、レダ、ユーリと三人で患者を担当していたので、忙しくともなんとか手は足りていた。
治癒士以外にも薬師も医者もいて、ルナ、ヴァレリー、アストリット、ヒルデも手伝ってくれていた。
しかし、現在はレダとユーリの治癒士をはじめ、ルナたちもいない。
レダの母フィナ・ディクソンも手伝ってくれていたのだが、彼女は急患が出たということで冒険者ギルドに向かった。
フィナの治癒魔法は素晴らしいものであり、ネクセンも感動するほどだった。それゆえに、一刻を争う患者のために力を奮ってもらいたい。
代わりに、ネクセンが忙しいことは仕方がないことだと考えている。
(――だが、これは嬉しいことだ)
かつて、ネクセンは高額な治療費を要求する治癒士だった。そのため住民に恨まれていたこともあった。
しかし、レダと出会い、治癒士らしく人のために行動するようになり、街の人たちと打ち解けていくことができるようになった。
傲慢だった性格も朗らかとなり、今では支えてくれる妻もいる。
ネクセンをかつてのことで揶揄う者はいても、もう笑い話にしてくれるのだと安心していた。
しかし、不安がないわけではない。
レダという診療所の要がいなくなり、ネクセンだけが残った診療所に患者が来てくれるのか、という心配だった。
かつて自分がしたことは、ネクセン自身の心にしこりとして残っている。
だからこそ、本当の意味で受け入れられているのか、と悩むこともある。
だが、それは、レダの不在の診療所に変わらず患者が来てくれることで解消された。
涙が出そうなほど嬉しいが、泣いている暇はない。
今は軽い怪我人ばかりなので、いいが、いつ重傷者が運ばれてくるのかわからないのだ。
(……レダなら笑って治療を続けていたはずだ。張り合うつもりはないが、レダの背中に少しでも追いつきたい)
口にはしないが、ネクセンはレダを心から尊敬している。
治癒士として力を持ちながら、人に使われるばかりで損をしていたと聞いていた。その気になれば、楽な道にだって進めたはずが、底辺冒険者という地位を甘んじで続けていたのだ。
ネクセンでは耐えられなかっただろう。
だが、レダのコツコツとした努力が結び、今では正当に評価されている。
秘密裏に王都に診療所を作らないかという打診もあるらしい。
ネクセンは、自分を見捨てなかったレダに恩返しを続ける。
いつか、胸を張って彼を友人と呼べる日が来る日まで動力し続けるのだ。
(とはいえ、俺にも限界がある! 治癒士が足りない!)
心の中で悲鳴を上げながら、汗を流してヒールをかけ続けるネクセンに、
「ほうほう、噂には聞いていたが、頑張っているようだな」
聞き覚えのある男性の声がした。
忙しい時に誰だ、と顔を声の方に向け、目を見開く。
「――先生!」
ネクセンの師である治癒士ドニー・ウィンがいた。
「どれ、手伝ってやろう」
初老の治癒士ドニーは腕まくりをすると、呼吸するようにヒールを使い、次々と患者を治療していくのだった。
〜〜あとがき〜〜
最新コミック6巻が発売されております!
ぜひお読み頂けますと幸いです!
よろしくお願い致します!
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