31「ナオミの一撃」





「勇者ナオミ・ダニエルズ様! まさかこのような辺境の街のギルドに来ていただけるとは!」

「うむ! 用事があったのだ!」


 ナオミを応接室に通したベニーは、おべっかを使いながら要件を聞く。


「はて? このようなど田舎になにか御用で?」

「勇者としての務めなのだ」

「そうでしたか。勇者のお務めと言いますと、その、不躾ですが、我々のギルドも勇者様のお力をお借りしたいのです」


 ナオミが首を傾げた。

 ベニーは「嫌だ」と言わないナオミに畳み掛けるように続ける。


「ここユーヴィンは、領主様から任された貴族によって苦しい目に遭っていました。我々は抵抗したのですが……残念なことに……」

「なるほどなー」

「少ないですが、謝礼もいたしますので……どうか、我々と一緒に貴族と、そして領主と戦ってはくださいませんか? この通りです!」


 ベニーは娘ほど歳の離れた勇者に、恥もなく土下座をした。

 利用できるものはなんでも利用する。

 そのために頭を下げることになっても構わない。

 利用する以上、自分のほうが上なのだと考えているからだ。


「嫌だ!」

「――え?」


 思わず下げていた顔を上げてしまった。

 まさか辺境のギルドの長とはいえ、仮にもギルド長の願いが、断られるとは思ってもいなかったのだ。


「やっぱり、お前の言う通りだな、エミリア」


 ナオミは背後に立つ、ベニーの秘書官エミリアに向く。

 彼女は、静かに頷いた。

 そこでベニーはハッとする。

 ベニーとナオミは机を挟んで対面するように座っている。

 だというのに、なぜベニーの秘書官であるエミリアが、自分ではなく勇者ナオミの背後に控えるように立っているのか。

 ベニーの思考が答えに辿り着くよりも早く、ナオミは立ち上がると、大剣を抜いた。


「勇者として、お前みたいな悪いギルド長はぶっ殺すのだ! とりあえず、こんなギルドはいらないので排除するのだ!」


 大剣が神々しく輝くと、ナオミは頭上に構え、一気に振り下ろした。


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!」


 次の瞬間、情けなく悲鳴を上げるベニーのすぐ横を光の刃が通り過ぎ、冒険者ギルドの建物を真っ二つにしたのだった。






 〜〜あとがき〜〜

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