29「テックスとボンボ」




「諸君、ここからは通行止めだよ」


 ダークエルフのボンボは、ポージングを決めながら伯爵家別邸の前で武装した冒険者たちに軽やかに言い放った。


「ま、痛い目に遭わないうちに、さっさと冒険者ギルドに戻ってギルド長に計画は失敗ですって報告にいっちまいな。今なら、追いかけないでいてやるぜ」


 ボンボの隣には軽装備と、抜き身の剣を握ったテックスがいた。

 ボンボとテックスのふたりに対し、冒険者は二十人ほどだ。

 どいつもこいつも冒険者というよりも荒くれ者という言葉がよく似合う風態をしている。

 冒険者ギルドの悪評は聞いているので、ギルド長に従って別宅を襲撃するため集まった奴らなどたかがしれている。


 ボンボはダークエルフであり、鍛えられた肉体はさておきかなりの魔術の使い手だ。ダークエルフであるため、人間と基礎から違う。

 テックスも勇者には劣るが、若い頃は名が大陸中に轟いたことのある一流冒険者だ。技量、経験、すべてが若造とは違う。


「おいおい、誤解だ。俺たちは領主様たちが冒険者に囚われてしまったという情報を聞きつけ善意で集まったんだ」

「お前たちが狼藉を働く冒険者……いや、犯罪者の味方でなければ、そこをどけ」

「俺たちは冒険者ギルドのトップベニーさんの命令で動いているんだ。あんたらも冒険者なら、この意味がわかるよな?」


 冒険者たちは、ギルド長ベニーが背後にいるため強気のようだ。

 おそらく甘い汁を散々吸っていた可能性もある。

 しかし、テックスたちにベニーの名前を出したのは逆効果だった。

 彼らははっきり言ったのだ「敵である」と。


「ま、そう言うわな。一応、言っておいてやるが、お前さんたちの悪行はぜーんぶ伝わってんだ。使うだけ使って捨てた冒険者たちも、俺の自慢の親友が全部治しちまった。今は、風呂入って飯食ってるよ」

「馬鹿なことを言うな! 街にどれだけの使えない冒険者がいたと思っている! その全員を治療しただと!? 寝言は寝てから言え!」

「レダのことを知らなきゃ、そう言うわな。俺だって、きっと同じことを言っただろうさ。ま、巡り合わせが悪かったってことで、ひとつ。恨むなら、人を見る目がない自分を恨みな」


 テックスはベニーの配下である冒険者たちに手心を加えるつもりはない。

 ベニーは自分の駒を使える間はとことん甘やかす癖があることを知っている。

 ならば、彼らもいい思いをしただろうし、ベニーと一緒に犯罪に加担しているだろう。

 冒険者の一存でやってはいけないことだが、心労を重ねている領主であり友人であるティーダを思うと、憂はここで全て絶ってしまった方がいい。


「俺も悪魔じゃねえ。お前さんたちが、領主様に土下座して、自分たちのしてきた罪を告白し、ベニーを罰する材料を提供するのなら、ま、刑は軽くなるよう口を聞いてやる」

「ふざけるな! お前らこそ、つまらん領主に味方したことを嘆くといい! こっちは、お前らを殺したあとに、女どもを好きにしていいって言われているんだ! とっととくたば――」


 冒険者の言葉が止まった。

 無理もない。

 脳天から股にかけて両断されてしまえば話すことなどできるわけがない。

 剣に付いた血を払い、テックスは感情を殺した表情で冒険者たちを睨んだ。


「そこまで話が進んでいるなら、問答は無用だ。俺の親友の嫁さんと娘さんに、そのまともに洗ったことのない汚ねえ手で触れようっていうなら、死んじまえ」

「私も君たちを許せない理由ができてしまった。大事なレダの家族は私の家族でもある。そんな家族を辱めようとするのならば、私の華麗な魔術を冥土の土産に旅立たせてあげよう!」


 テックスとボンボが同時に地面を蹴った。

 冒険者たちは、なす術なく全員皆殺しにされたのだった。





 〜〜あとがき〜〜

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