25「驚きの再会」②




 建物に入るととひどい異臭がした。

 朽ちかけた建物は埃臭く、誰かが使ったと思われる家具は劣化している。なによりも、鼻をつくのは、血と、肉が腐った臭い、そして汚物の臭いだ。


「……匂いは我慢してくれ。姉御が動けないから」

「問題ないよ」


 少女が気を遣った言葉をかけてくれるが、レダとしては気にならない。

 怪我人病人が用をひとりでできなくなることは珍しくない。アムルスで治癒士として働くようになってから、介護の仕事もしてきた。

 他人の日常生活を助けることはとても大変ではあるが、ただ治癒しておしまいではないのだ。

 レダだけではなく、同僚のネクセン、ユーリはもちろん、診療所を手伝ってくれるミナ、ルナ、ヴァレリー、アストリット、ナオミたちは例外なく必要ならしていた。

 ヴァレリーとアストリットは、自分たちがそれぞれの理由で伏せっていたときに助けられた側だったので、貴族の令嬢や王女という身分関係なく助けを求める人には迷わず手を差し伸べていた。

 ネクセンも、かつては高い金銭を要求する治癒士で、町の嫌われ者だった。しかし、レダを見習い、治療をし、患者に寄り添うことで、信頼を勝ち取っていった。今の彼を嫌う人間はもういない。ユーリも同様に、多くの患者に寄り添ってきた。


「さあ、お姉さんのところに」


 最悪の状態を考えてしまう。

 レダの治癒も万能ではない。

 手の施しようがないほど怪我が悪化し、生命を脅かそうとしているのなら、治癒を施しても助けられない可能性だってある。

 血の濃厚な臭いと、肉が腐った臭いから、長い間怪我を放置してきたのだと思われる。

 必要であればこの場で治療をすることを考えながら、少しでも早く患者のもとへ急ぐ。


「ここだよ! ――姉御、治癒士を連れてきたよ! タダで見てくれるんだってさ、飯も、風呂も、服も用意してくれるって! 開けるよ!」

「……ま、て」


 朽ちた建物の中で唯一部屋として機能している場所を怪我人に使わせていることから、少女が優しく、本当に姉を気遣っているのだとわかる。

 一方で、治癒士を連れてきたと告げると、扉の向こうから弱々しいが警戒した声が聞こえた。


(――この声、どこかで)


 どこか懐かしさを覚える声だった。


(いや、気のせいかな)


 首を振り、避けないことを考えず治癒士としての仕事に徹しようと切り替える。

 レダが頷くと、少女はそっと扉を開けた。






「――え?」





 最低限の掃除をしたと思われる部屋の片隅に、朽ちかけたベッドと埃だらけの毛布が置かれ、力無く横たわっているのは右腕と左足のない女性だった。

 肉体は細く、汚れている。

 もし分けない程度に巻かれた包帯からは異臭がする。


 しかし、患者の状況に驚いたわけではない。


 汚れてもなお空のような色を保つ女性に見覚えがあったのだ。

 レダが冒険者になるきっかけをくれた憧れの人――ローゼス・ウィリアムソンがそこにいたのだった。





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