23「治療の始まり」②





「触るな! 俺の身体はもうだめだ! 腕がなくなっちまったんだ、他を治療してなんになるってんだ! 頼むから放っておいてくれ!」


 右腕を失っている冒険者は、乱暴にレダが差し伸べた手を払い除けた。

 これで、三人目だ。

 治療を始めようとしたレダだが、回復魔法を行うにも魔力の限界がある。

 なによりも、衛生的に最悪な路上で、食事すらまともに取れない状況下では、たとえ治療をしても今度は病気になってしまう。実際、病気になっている者もいる。

 治療の前に、怪我人と病人を屋敷に集めてまとめて治療を行おうとしたのだが、見ず知らずのレダが治療すると言っても、相手は警戒して聞き入れてくれない。

 だからといってこの場で治療をすれば、騒ぎになるのは間違いないのですることもできない。


「……ルナ、悪いけど」

「はーい!」


 背後で見守っていたルナが、元気よく返事をすると、レダの背後からひょいと飛び出し冒険者の側頭部に蹴りを入れて昏倒させた。


「そうじゃなくてね。気を失わさせるから、運ぶをの手伝ってって言おうと思ったんだけど」

「いいじゃない。怪我はさせていないしぃ、させてもパパが治すからぁ。それにほらぁ、あっちを見てよぉ」


 誤魔化すように笑うルナに、レダが苦笑した。

 その近くでは、ミナが抱き抱えるノワールが「元魔王ビーム!」とよくわからない掛け声と共に、魔力の光線を口から飛ばし、治療が必要な者たちを次ぎ次と気絶させていく。こちらは、声をかけることさえしていない。

 他にも、刺股を持って逃げようとする怪我人を捕まえようとしているヴァレリーと、アスとリット。筋肉を光らせて魔術で次々と冒険者たちを眠らせるボンボ。


「……うわぁ」


 誰も治療のちの字もしていなかった。

 その光景はまさに――。


「うゎああああああああああああああああああ! 人攫いだぁあああああああああああああ!」

「うん、人攫いだよね……って、違います! 俺たちは治療のために!」

「助けてくれぇええええええええええ! 殺すなら楽に殺してくれぇええええええええええ!」


 近くにいた冒険者のひとりは、きっとレダと同じ意見だったのだろう。

 包帯を巻いた身体を酷使して、逃げ出してしまう。

 彼が周囲の怪我人たちに大声で知らせてしまったため、次々と治療の必要な患者たちが逃げていく。


「ああ、もう! どうしてこんなことに!」


 今まで善意を語った悪意のせいで酷い目に遭ってきたのだろう。

 レダたちが誤解されるのも仕方がない。

 だからといって、この誤解のせいで時間を無駄にしてしまうのは避けたい。


「ええい! もう、全員気絶させてから治療してやる!」


 レダも自棄っぱちになって冒険者に躍りかかると、次々に意識を奪い続けた。

 気を失った冒険者は、借りてきた荷台に乗せて屋敷に連れていくことにした。




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