22「治療の始まり」①
「待ってくれ、ノワール」
さっそくダンジョンを目指そうとするノワールに、待ったをかけたのはレダだった。
「なにかな?」
「ダンジョンの存在があるとわかっているのなら、それは後回しでいいんじゃないかな? 俺は、まず怪我人たちを治療したいんだ」
「……そうだったな。すまない。私は、右往無象の人間などどうでもよかったので、つい、な。領主殿、ディクソン家の家長は怪我人の治療を求めている。ダンジョンの件はあとにしていいだろうか?」
「もちろんです。私も治療を望んでいます」
「うむ」
ノワールが了承したことで、ダンジョンは後回しにする。
レダとティーダが顔を合わせて頷き合う。
「治療もちろんだけど、清潔な場所と、食事が必要かな」
「レダの言う通りだ。本来なら、ギルドを使いたいが……現状では無理だな」
「なら、この屋敷を使えばいい」
マールドの申し出はとてもありがたかった。
お世辞にもユーヴィンの街に清潔な場所は少ない。
宿屋はギルドの手が回っている可能性もあり、商人の店や家も同様だ。
「いいのか?」
「今まで彼らになにもしてあげられなかったんだ。屋敷を提供するくらいどうってことはない。風呂も大きいから順番に使うといい。ただ、その、みっともないことを言うが、私は恨まれているので身を守ってほしい」
マールドは悪党ではないが、住民たちはギルドの情報操作で誤解している。
せっかく善意で屋敷を治療の場に使わせてくれたとしても、彼が危害を与えられたら台無しだ。
「みっともないなんてことはありません。あなたは立派だと思います」
「……ディクソン殿」
「辛かったとは思いますが、だからこそ、あなたは正々堂々しているべきです」
「しかし」
「じゃあ、私が守ってやるのだ!」
護衛を申し出てくれたのは、ナオミだった。
勇者である彼女がマールドを守れば、万が一はないだろう。
「ゆ、勇者殿が私を!?」
「ミナたちはルナとヒルデ、ついでにノワールが守れるのだ。ティーダはテックスが守ればいい。うん。それがいい!」
「よろしいのですか?」
「私は勇者だからな! 困っている者は助けるぞ!」
「――っ、ありがとうございます!」
深々と頭を下げるマールドに、ナオミが胸を張る。
これで彼の安全は保証された。
治療の場も手に入れた。
「食料は俺の収納にできる限り入れてきました」
「調理場を貸していただければわたくしたちが食事の準備を致しますわ」
「民のために少しでも役に立ちましょう」
「……ヴァレリー、アストリット王女殿下、感謝します!」
この町の惨状に、ヴァレリーとアストリットも自分ができることを見つけ、申し出てくれた。
「ところでぇ、ダークエルフのおじさんはどこいっちゃったのかしらぁ?」
「あれ? ボンボおじさん?」
ルナに言われて、レダはボンボがいなくなっていることに気づく。
「ボンボのおっさんなら、外に出て行ったのだ」
「刺客がもうきやがったんだ。俺も手伝おうかと思ったんだが、ボンボの旦那はひとりでいいってさ」
ナオミとテックスはボンボが出て行ったことと、すでにギルドから刺客を送り込まれたことに気づいていた。
会話の方に気を取られて、気づけなかったルナが悔しそうな顔をする。
そんな時、ボンボがポージングを決めながら戻ってきた。
「やあ、諸君。お話は終わったかね? 私の心配ならいらないよ。武装した冒険者が屋敷を囲っていたが、軽く魔術でご挨拶したらみんな倒れてしまったよ。最近の冒険者はか弱いね。かつての時代なら、私の筋肉に触れることくらいはできたはずなんだがね」
一歩歩くたびにポーズを決めるボンボの活躍に、レダは苦笑しながら心強く思った。
「よし! じゃあ、治療を始めよう!」
〜〜あとがき〜〜
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