9「ボンボおじさん」①





「ご機嫌麗しゅう、諸君! 元気に筋肉を鍛えているかな?」


 膝上の半ズボン、ノースリーブのシャツ、サンダルというやや露出の高い格好をしたダークエルフの中年男性が、ディクソン家のリビングでポージングをとって挨拶をした。

 ムキムキの筋肉が灯りに反射し、衣服をこれでもかと圧迫している。

 複数のポージングを決めて満足したダークエルフの男性は、懐かしそうに見つめるレダににっこり笑顔を浮かべると抱きしめた。


「久しぶりだね、可愛いレダ! おお、細くも鍛えられているのがわかる。私ほどではないが、いい筋肉をしているね!」

「ははははは、ボンボおじさんも相変わらずだね! 久しぶりに会えて嬉しいよ!」

「私もだ! 聞けば素敵な家族を得たようだね。レディたちに私のことを紹介してくれるかい?」

「もちろんだよ」


 筋肉とポーズを見せつけられた女性陣たちは、唖然として硬直している。

 ボンボを知るフィナだけが、「相変わらず、うっとしいわよねぇ。わかる? これが隣に住んでいたのよ?」とつぶやいている。


「みんな、彼がボンボおじさんだよ」

「やあ、美しいレディたち。ご紹介に預かったボンボ・ボンボです。レダの家族なら私にとっても家族だ。ボンボおじさんと親しみを込めて呼んでくれたまえ」


 そしてポーズをするボンボ。


「……想像以上に癖のあるのがきたわね」


 つい本音をぽろっとこぼしたルナに、ヒルデ、ヴァレリー、アストリットがうんうんとうなずいている。

 ミナは、未知なる生物を見るように瞳を輝かせていた。ナオミはこのくらいでは驚かないように、「よろしくなボンボおじさん!」と挨拶をしている。

 子猫となった元魔王ノワールも、「濃いなぁ」と驚いている。


「どうしたの?」

「あ、ううん。なんでもないわ。えっと、ボンボおじさん、パパの――いいえ、レダさんの妻のルナです」

「ヴァレリーですわ」

「アストリットです。よろしくお願いします」

「エルフのヒルデガルドだ。よろしくな」


 レダが様子のおかしいルナたちに声をかけると、彼女たちは慌てたように挨拶をした。


「素敵なレディたちが、我が子同然のレダの奥さんになってくれたことに感謝するよ」

「ボンボおじさんは、隣の家に住んでいてね。兄のように、叔父のように、父のように可愛がってくれたんだ。尊敬している人だよ」

「おいおい、レダ。あまり褒めないでくれたまえ。上腕二頭筋がぴくぴくしてしまうではないか!」

「はははは、そしてもうわかったと思うけど、恥ずかしがり屋でもあるんだ。でも、ボンボおじさんはすごいんだよ。お母さんに次ぐ実力者でね。俺のもうひとりの師匠でもあるんだ」


 レダと会話している間も、数々のポーズを決めていくボンボにルナたちは視線を向けて良いのか、見ない方がいいのかわからず困惑気味だ。


「……つまり、レダの体術の師匠なのか?」

「え?」

「え?」


 ヒルデの疑問になぜかレダが首を傾げた。


「違うよ。ボンボおじさんは、地属性魔術の使い手なんだよ。今までボンボおじさん以上の使い手には会ったことがないかな」

「そうやって、レダはすぐ私を褒める! 大胸筋がびくんびくんしてしまうではないか!」


 そんなやりとりをしているレダとボンボに、ヒルデたちは揃って叫んだ。


「その肉体で魔術師なのか!?」




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