8「さっそく報告」




 診療時間の前に、領主邸宅を尋ねようとしたレダだったが、他ならぬティーダが神妙な面持ちで診療所の前にいた。

 レダと視線が合ったティーダは、罰の悪そうな顔をして「すまない、気になってしまった。レダに結論を急がせるつもりはないんだが、家族でどのような話をしたのかと思ってね……すまない」といきなり謝罪してきたので、苦笑しつつ、診療所の中に招いた。


 まだ患者のいない待合室の椅子に腰を下ろし、レダとティーダは向かい合う。

 ぎこちない雰囲気のティーダに対し、レダは勿体ぶらずに告げた。


「ユーヴィンの街に行こうと思います」

「――っ、本当か!?」


 レダの決断に、座ったばかりのティーダが勢いよく立ち上がり、肩を掴んで揺さぶってきた。


「は、はい、そうですけど、ちょっと落ち着いてください!」

「す、すまない!」


 手を離してもらって、改めて向き合う。

 最初に口を開いたのは、ティーダだった。


「それで、本当にユーヴィンに行ってくれるのか?」

「はい。期間限定、という条件を改めて付けさせていただきますが、微力ながらユーヴィンに住まう人々のために」


 恐る恐る、確認するよう尋ねてきたティーダに、首肯し、告げた。


「感謝する、レダ」


 レダの言葉を聞いたティーダは、安堵するような、嬉しさを隠しきれないような笑みを浮かべ、身体から力を抜いた。


「……えっと、条件というわけではないんですけど、家族総出で行くことをご了承ください」

「本気か?」

「はい。家族で決めました」


 ティーダの動揺もわかる。

 レダを派遣するだけでも躊躇いがあったというのに、家族総出でユーヴィンに行くというのだから驚くのも無理がない。

 妹ヴァレリーも、王女アストリットも一緒なのだから、心配は大きいだろう。

 しかし、レダとしては、領主の妹君も王女殿下も大事な家族なので分け隔てなくみんなと同じだ。


「……これは護衛を増やそう。想定していた倍の護衛をつける必要が」

「ナオミも来てくれますし、ルナとヒルデは個々で強いですし、故郷からボンボおじさんもついてきてくれるそうなので、よほどのことがない限りは大事にならないと思います」


 勇者、元暗殺者、エルフの戦士、ダークエルフ、そして治療ばかりしているがレダだって腕っ節は強い方だ。

 家族がバラバラに行動する予定もなく、最高戦力の勇者ナオミにはミナたちから離れないでもらう。

 魔王ですら失禁する勇者をどうこうできるのもならしてみろ、という安心感がある。


「……そうか、それはそれで過剰戦力の気がしないでもないが、万が一を考えると、そのくらいでありがたい」


 ティーダは納得するように頷いてから、レダに手を差し出した。

 握手を求められているのだと気づき、握った。


「レダ……君の決心に感謝する。ありがとう」

「どういたしまして」




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