6「家族と相談」③
「こらっ、ママでしょう!」
「……いい年をしたおっさんがママなんて呼べないよ。というか、いつもお母さんって呼んでいたのに」
「三十じゃまだ赤ちゃんみたいなものじゃないの」
「寿命が違うでしょうに」
こんな他愛ない掛け合いが懐かしい。
かつても、フィナはなんとかレダにママと呼ばせたがってねだってくるのだが、幼い頃ならさておき、いい大人のレダは絶対にママと彼女を呼ぶことはなかった。
一度、誕生日にママと呼んでみたが、感極まったフィナが「レダがママって呼んでくれた!」と触れ回ったので、以後、絶対に呼ぶものかと決めている。
「こうして息子とお酒を飲み交わすことになるなんてね。村にいた時は飲まなかったのに……お酒に頼るような生活になっていたんでしょう?」
「あー、うん、まあ、なんというか、そうだね。軽く飲むくらいはしていたけど、気づけば深酒をするようになっていてね。あ、でも、今はちゃんと楽しんで、飲みすぎないようにしているよ。ミナたちの前でだらしないことはできないからね」
「ふふふ、一人前の大人の顔をしちゃって」
「赤ん坊って言ったり、大人って言ったり、どっちなんだか」
レダは苦笑しながら、グラスを彼女の前に起き、琥珀色の液体を注いだ。
フィナは椅子に座ると、ストレートで煽るように飲み干してしまう。
母が酒に強いことは嫌なほど知っていたので、相変わらずだ、と苦笑する。
こうして母と向かい合ってお酒が飲める日が来ることに感謝した。
「それで、悩んでいるようね?」
「わかる、よね?」
「そりゃそうよ。なんたってママだもん――って、言いたいんだけど、いつもだったらルナちゃんと夜の営みをしているのに、ひとりでお酒飲んでいるから丸わかりよ」
「覗いてないよね!?」
「……………ないわよ?」
「その間が気になって仕方がないんだけど」
「そんな些細なことどうでもいいじゃない! 問題はあなたの悩みよ」
「些細じゃないけど……」
「ほらほら、相談に乗ってあげるから」
レダは母に相談した。
ユーヴィンのこと、ルナたちが着いてきてくれると言っていること。家族の責任の重さを痛感したことを。
すべてを吐き出したレダに、フィナはにこりと笑顔を浮かべた。
「あなたの悩みは自然なものよ。私が同じ立場でも、同じように悩むわ。親は、家族は、いつだって家族のためを想っているのだからね。ティーダさんも、苦渋の決断であなたを頼ったはずよ。だって、ヴァレリーちゃんがついていくなんて、お兄さんならわかっていたでしょうに」
「――っ、そう、だね」
「領主様って大変よね。家族と友人にリスクを負わせても、守らないといけない民がたくさんいるのだもん」
フィナの言う通りだ。
ティーダだって、ヴァレリーをとても大事に思っている。
そんな妹が危険な目に遭うことだって想定しているはずだ。それでいながら、助けを求めているユーヴィンのために、治癒士である自分を送りたいのだ。
「無責任で頼んでいるわけではないわ。きっと……信頼できる友人だからこそ、弱音を吐き出して無理なことでもお願いできるのよ」
レダのお人好しな性格を利用しようとしたわけではない。
単に、一番信頼できる人間がレダだった。それだけの話だ。
「お母さん、俺、決めたよ」
「嘘おっしゃい。とっくに決めていたくせに」
「……そうだね」
「アムルスのことは私に任せなさい。敵対する者はすべて塵に、怪我した人は全員治療してあげるわ。私の腕は知っているでしょう。心臓が止まったって、五分以内なら動かしてみせるから」
それに、とフィナは続けた。
「弟を護衛につけてあげる。ほら、近所に住んでいた、ボンボよ」
「え? ボンボおじさん来てるの!?」
「さっきね。村から出るなって反対する村長をぶん殴って出てきたんだって。一部の村人だけ外に出るなんてずるいって文句言っていたわ」
「……よりによって、村一番の変人が……いや、滅茶苦茶頼りになる強い人だけどさ!」
きっとルナとミナたちは驚くだろうなぁ、とレダは苦笑する。
だが、家族の護衛を無条件で託せる人がいることに安心もできる。
「レダが村を出てから、もっと強くなったわ。そろそろ私にも勝てるんじゃないかしら。そんなボンボだから、人間の冒険者くらい……よほど規格外じゃない限り、勝てないわよぉ」
「ボンボおじさん、また強くなったんだね。ああ、でも、こんな時だけど、またボンボおじさんに会えるのは嬉しいよ」
「一番懐いていたものね」
懐かしむように目を細めるフィナに、レダは真っ直ぐ視線を合わせた。
「――行ってきます、お母さん」
「ええ、いってらっしゃい」
――こうしてレダのユーヴィン行きが決まったのだった。
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